2021年07月号
私が考える「言論の自由と名誉毀損訴訟」
全文掲載【佐藤優vs.佐高信「名誉毀損バトル」】鎌田慧「国家権力に『泣きを入れた』佐藤優」
カテゴリ:事件・社会
過去に共著もある佐藤優氏が佐高信氏を提訴した今回の騒動。言論人による、言論人への提訴は、同じく言論を生業にする者の目からはどう見えているのか。両氏のこともよく知る有識者に忌憚のない意見を聞いた――。
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批判された物書きが、批判した物書きを訴える。まず、そのことに驚いた。言論は当然、「言葉による殴り合い」を覚悟する。殴られたら殴り返す。それが反論のあり方だ。だから、私にはこう見える。ボクシングの試合中、負けそうだから助っ人を呼んだ。それも自分の仲間に頼むのではなく、国家権力に助けを乞うた、と。まして売れっ子の佐藤優さんは、失礼かもしれないが、現在の佐高信さんより付き合いのある媒体が多い。なのに自分で書かず、国家に「泣きを入れた」のだ。かつて「国家の罠」に酷い目に遭わされたはずの人が、よりにもよって。今や完全に国家を信じていることが明らかになったように思う。
訴状では、佐藤さんが電気事業連合会の新聞広告に出演したことが、論点の一つとなっている。
2011年3月まで、ほぼ全てのマスコミが原発賛成だった。電力業界から莫大な広告費が入っていたからだ。「原発御用文化人」もたくさんいた。支払われる講演料や出演料は、市民の想像を絶するほど高額だった。
そこに、福島原発事故が起き、御用学者を除けば、露骨な原発擁護をする人はいなくなった。ところが、安倍晋三政権が再稼働に舵を切ってから、新しい「原発文化人」が現れだした。その流れの先頭にいるのが、佐藤さんだ。
「最低で1000万円」という金額が正確かどうか、私にはわからない。だが、電事連が佐藤さんに重要な「使者」の役割を担わせたのはまちがいない。問題の広告は、青森県の県紙『東奥日報』に掲載された。青森県は核燃料サイクルという巨大な原子力計画の中心地であり、国の原発政策の帰趨を決する地域である。
つまり、佐藤さんが引き受けたのは、「原発の聖火ランナー」だったのだ。青森県の県紙で、原発宣伝の伝道者になった、というのは、そういう意味だ。言論人として担った役割についての認識を、私は聞いてみたい。
別の論点である創価学会をめぐる記述は、思想性の問題だ。佐藤さんは『AERA』で「池田大作研究」を長期連載した。学会の機関誌『第三文明』では「希望の源泉 池田思想を読み解く」をすでに60回近く連載し、『潮』でも「師弟誓願の大道 小説『新・人間革命』を読む」の連載を持つ。ここまで〝青黄赤〟のカラーに染まっていれば、創価学会のトーチを掲げて走っていると見なされても仕方がない。創価学会が好きなら好きでいい。だが、公明党は自民党と連立を組む与党だ。与党の選挙母体の発行物にこれだけ関わっていると、政権に援護されているという感覚にならないのか。不思議でならない。
佐藤さんが産経新聞20年4月12日付で寄稿した記事の見出しは〈安倍首相の下で団結せよ〉。これでは、体制側の言論人になったといわれても仕方ない。それでもなお、左右問わず様々な場所で活躍中だ。その意味とは、「マヌーバー」が受け入れられるようになったジャーナリズムの現在地を示しているのだと、私は思う。(談)
ルポライター 鎌田 慧
かまた・さとし―1938年生まれ。早稲田大学第一文学部露文科卒業後、新聞、雑誌記者を経てフリーのルポライターとなる。