ZAITEN2022年1月号
国内最大手「暗号資産取引所」は中国勢の手に落ちる寸前だった――
【経済安保特集】日本の「データ主権」防衛に当局の弱腰
カテゴリ:企業・経済
〈暗号資産交換業者セクターの顕著な重要性、および金融庁の監督上の主要な役割を考慮すると、日本の監督の有効性はいまだ大きな改善が必要である〉 〈固有のマネロン・テロ資金供与リスクを有する暗号資産交換業者分野の出現を考慮すると、IO・4(金融機関等における予防的措置=筆者補足) については、いまだ大幅な改善が必要である〉
マネーロンダリング(資金洗浄)防止やテロ資金対策の国際組織、金融活動作業部会(FATF)が8月公表した第4次対日相互審査報告書の指摘だ。加盟する39カ国・地域のうち、日本は3段階の総合評価で2番目の「重点フォローアップ国」だった。
審査対象のひとつ、暗号資産(仮想通貨)を巡って日本は2018年、暗号資産取引所「コインチェック」から580億円分の暗号資産が流出する事件が起きた。北朝鮮やロシアのハッカーの関与が取り沙汰されたが、現在まで容疑者は捕まっていない。流出した一部は北朝鮮に流れたと見られている。折しも国連安保理が17年から実施した北朝鮮への経済制裁の最中とあって、米国が日本に対し強い不満を伝えたとされる。
そもそも、日本はこれまでFATFの審査を08年、14年、今回と3回受けている。08年の審査では半分以上の項目で対策が不十分とされ、14年には名指しで「指摘された問題を改善していない」と酷評された経緯がある。
もちろん金融庁は、暗号資産取引所に利用者の本人確認の徹底と反社会的勢力の情報照会を求めるなど、マネロン防止とテロ対策を何もしていないわけではない。だが、日本は、資金決済に関する法(資金決済法)と内閣府令で暗号資産取引所の登録制をとっている。業務停止命令などの強権を背景に銀行を監督する銀行法とは建て付けが異なるとして、当の金融庁が腰の引けた状態だったのは事実で、FATFの指摘はまさに大手金融機関以外の暗号資産取引所などに対する日本の監視・規制強化を求めているのだ。
そんな太平楽な日本の金融監督を大きく揺るがせたのが、中国系企業による日本の暗号資産取引所の買収案件の発生だった。
最大級ビットフライヤーが中国系フォビと売却交渉
日本最大級の暗号資産取引所「bitFlyer(ビットフライヤー)」が20年秋、中国系の暗号資産取引所「フォビジャパン」への売却交渉を始めたのだ。交渉は水面下で行われたが、ビットフライヤーはメガバンクとの関係が深いこともあってか、金融庁は早くから状況を把握していた。
ビットフライヤーは14年、共同創業者の元ゴールドマン・サックス証券の加納祐三氏と小宮山峰史氏が設立。ビットコインなど暗号資産を国内で取り扱い、海外にも展開している。暗号資産流出事件後にネット証券大手、マネックス傘下に入ったコインチェックと並び、国内最大級の規模を誇る。
日本で暗号資産取引所の売買は原則自由だ。だが、交渉相手が中国系のフォビだったことに、金融庁内に懸念の声が広まる。背景には、中国が進める中国国内で収集したデータの国内保管義務付けと海外移転規制があった。
......続きはZAITEN1月号で。