【記事無料公開】さらば!安倍晋三&アッキー「最悪政権の大罪」(中編)

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p014.jpgあらためて安倍治世の「大罪」を振り返るべく、本誌「ZAITEN」2020年8月号で展開した特集《さらば!安倍晋三――アッキーともども早く消えてくれ》の巻頭レポート〈安倍「最悪」政権7年半の大罪〉(ルポライター・古川琢也氏寄稿)の〈中編〉を〈前編〉に引き続き無料公開します。

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勇ましいのはポーズばかり―「連戦連敗」の安倍外交

 自民党が昨年夏の参議院選挙に向けて発表した「政策パンフレット」の1頁目には、「世界の真ん中で力強い日本外交」というフレーズのもと、まるで安倍が世界のリーダーでもあるかのように振る舞う写真が並んでいる。安倍の取り巻きの自民党議員たちも、「外交の安倍」なるイメージを盛んに振りまいてきた。

 そもそも安倍は、2012年の自民党総裁選と参院選で、「日本を、取り戻す」というスローガンを掲げて首相の座に返り咲いた。素直に解釈すれば、取り戻すべき「日本」とは北方領土、そして北朝鮮による拉致被害者のことになるだろう。だが、元北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)事務局長である蓮池透氏は、安倍がこれまで行ってきた拉致問題への取り組みは「ポーズだけ」で、「一言で言えばやる気がない」と批判する。

「たとえば、14年5月の『ストックホルム合意』。この合意では日本が制裁を一部解除するのと引き換えに、北朝鮮が『特別調査委員会』を設置して、拉致被害者を含む日本人行方不明者の調査等を行うと約束しました。ただこの合意自体は08年の福田康夫政権の末期にまとまりかけていたことで、言ってみれば6年前に戻っただけ。しかも安倍さんは08年当時、私たちに向かって『再調査なんて意味がない』と批判さえしていた。それをストックホルム合意が決まった時は官邸でぶら下がり会見を開き、『大きな前進をした』と自画自賛したのです」

 もっともその〝前進〟は2年も持たなかった。16年2月に北朝鮮が核実験と弾道ミサイルの発射を実施したことで日本が対北制裁再開を決定。これに対して北朝鮮側も、調査の中止と特別調査委員会の解体で応じたからだ。18年以降は韓国の文在寅や米トランプが対北外交で一定の成果を上げるのをよそに日本は「蚊帳の外」に置かれ続けた。

北方領土返還交渉も後退

 6月5日には家族会の代表を長く務めた横田滋氏の逝去が報じられた。蓮池氏は、その日の夜に安倍が開いた会見の様子をテレビで見ていたという。

「『断腸の思い』と言っていましたが、あれも散々聞いた言葉です。今さら切る腸がまだあなたにあるんですか? と言いたくなりました」

 安倍は、北方領土の返還交渉も政権の最重要課題と掲げてきた。16年5月には欧米からの経済制裁に悩むロシアに対し、エネルギー開発や医療分野などで日本が官民挙げて協力する3000億円強の経済協力案を提示。同年12月にプーチンを長門市に招いて行われた日露首脳会談では、1956年の日ソ共同宣言を土台に平和条約交渉を加速させることでプーチンと合意した。平和条約の締結後に歯舞、色丹2島を引き渡すと定めた共同宣言を根拠にまず2島の返還を確実にし、しかるのちに択捉、国後での主権行使も前進させようという狙いだった。

 だが、その結果は無残だった。19年6月22日には、プーチンがロシア国営テレビに出演し、北方領土でロシア国旗を降ろす「計画はない」と断言。今年1月24日には、昨年9月まで国家安全保障局長を務めた元外務事務次官の谷内正太郎が、民放のBS番組で、ロシアとの北方領土返還交渉は全く進展がないと認める一幕もあった。

 3000億円もの税金を差し出しながら、むしろ交渉を後退させてしまったのはなぜか。民族派団体「一水会」代表の木村三浩氏が解説する。

「北方領土返還に関してプーチン大統領が16年から一貫して言っていることは、『日露両国の間にある認識のズレについて認識してくれ』ということです。日本の外務省は『ソ連は戦後のドサクサに紛れて4島を不法占拠した』という立場ですが、ロシアからすれば第2次世界大戦の結果を受けて合法的に取得したという立場。まずその経緯を日本側が認めないことには交渉のテーブルに着かない、という姿勢を、プーチン大統領は最初から変えていないのです」

 この問題に絡んで、北海道新聞が17年12月30日に興味深い記事を掲載している。これによると、ソ連兵が1945年8月28日から9月5日にかけて択捉、国後、色丹、歯舞に攻め込み占領した作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたことが判明。さらに作戦実行3カ月前の45年5月には、米軍がソ連兵1万2000人をアラスカ州の基地に集め、ソ連兵が艦船やレーダーに習熟するための訓練に連合国軍事として全面協力していたというのだ。大スクープと言えるこの記事を、なぜか全国紙は後追いしなかった。

「アメリカが今もロシアが4島を不法占拠しているとは言わないのは、こうした歴史的経緯、つまりアメリカとソ連の2大国が戦後秩序の枠組みの中で、ソ連による4島占領を認め、協力さえした事実があるからです。そうした歴史的事実を認識することから出発しなければ、北方領土の話し合いなんてできませんし、経済協力だ、2島先行返還だといった小手先の議論も意味をなしません。だから、プーチン大統領に『2島を引き渡した場合、そこに日米安全保障条約は適用されるのか?』と皮肉を言われて揺さぶられる。安倍首相とプーチン大統領の個人的関係で解決できるようなレベルの問題ではないのです」(木村氏)

 そのプーチンとの個人的関係にしても怪しいところがある。19年9月5日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、安倍はプーチンをファーストネームで呼び親密感を演出した。オバマを「バラク」、トランプを「ドナルド」と呼んだのと同じように、「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている」「ゴールまで、ウラジーミル、駆けて駆けて駆け抜けようではありませんか」と呼びかけたのだ。

 これについて、元公安調査庁の職員でロシア語にも通じる西道弘氏が言う。

「ロシア社会では他人を公の場で、ファーストネームをそのまま呼ぶのは重大なマナー違反に当たります。敬意を込めて呼ぶなら、ファーストネームに彼の父称(父親の名前に由来する呼び名)をつけて、『ヴラジーミル・ヴラジーミロヴィッチ』と呼ぶのが普通。親近感を込めたいのであればウラジーミルではなく短縮形(愛称)の『ヴォロージャ』と呼ぶべきでしょう。ただこれも本当の親友同士でないならするべきではありません。外務省のロシアスクールがその程度のことを知らないはずはありませんが、にもかかわらずあんなスピーチをしてしまったのは、安倍首相が専門家の知見を軽視し、今井尚哉首相秘書官らお気に入りの官邸官僚の言うことばかり聞いててきたことの弊害でしょう。専門家たちも、どうせ耳を貸さないのに助言しても馬鹿らしいという気分なのでは」

 安倍の自己演出に、ひたすら振り回された7年だった。(敬称略、肩書等は掲載当時のまま)

【さらば!安倍晋三&アッキー「最悪政権の大罪」(前編)】はこちら↓↓↓

http://www.zaiten.co.jp/blog/2020/09/post-21.html

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