【月刊ゴルフ場批評32】
「東京ゴルフ倶楽部」批評
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先月に続き、またもや身分不相応のゴルフ場へ潜入することになった。日本を代表する名門コースの一つ、「東京ゴルフ倶楽部」だ。
東京GCといえば、関東最古のゴルフコースとして、設立当時は現在の東京・駒沢オリンピック公園内に存在した由緒正しいゴルフ場。ちょっと歴史を紐解いても、発起人に大蔵大臣が名を連ねていたり、摂政宮(皇太子)時代の昭和天皇がプレーしていたりと、そこらの名門とはレベルが違う。
現在、東京GCで行われている倶楽部競技も「プリンス・オブ・ウェールズ杯」「常陸宮杯」という名称が付けられ、2つあるグリーンの名称も「朝霞(朝香)グリーン」「知々夫(秩父)グリーン」と所在地と同時に宮様のお名前のようにも思えてくる。
そんな超名門コースも、新型コロナウイルス対策に大わらわ。3月13日には〈緊急対策〉を打ち出し、17日からの浴場のクローズとともに来場時の体温チェックを導入。さらに、4月7日の緊急事態宣言発令に先んじ、4日からコースをクローズする処置をとった。
往復の交通手段とクラブハウスの利用をなくせば、アウトドアのゴルフは安全というゴルファーも少なくないが、高齢で要人のメンバーが多い東京GCは、リスクのほうが高いと判断したのだろう。
実際、霞ヶ関CCについでクローズした東京GCに続けとばかりに関東を代表する「七倶楽部」は軒並みクローズを決めた。
さて、その名門にクローズ直前に訪れてみた。もちろん、新型コロナウイルス対策発動中で、フロント横に赤外線サーモグラフィカメラが設置されてあった。このカメラで赤く映った人のみが別室で体温測定させられるのだが、平熱とはいえ、緊張して妙な汗が出る。
クラブハウスは名匠、アントニン・レーモンドの設計だが、1階部分はよく言えばシンプルで、悪くいえば殺風景。大きな暖炉や磨き丸太を多用した梁など、レーモンドの作風を知るには2階のラウンジに上がらなければ感じられないが、いずれにしても華美な部分は微塵もない。
現在のコースは2010年に米国人設計家、ギル・ハンスの手による改造が行われたもので、2グリーンのルーティングはほぼそのままでグリーン周りを中心に手が加えられたという。ただ、ティーングエリアは一段低くなったようだし、両サイドの樹木も伐採や移植が行われて空間が広くなった。元は林間コースという印象が強かったが、茫洋としたリンクスを思わせる佇まいだ。
バンカー数も10増えて117個というからグリーン周りはシビアになったものの、過度に主張することなく、コース全体の雰囲気はむしろ穏やか。往々にして外国人設計家の手が入ると、主張の強さが目立ってしまうが、むしろ改造前より素朴さが際立つ。奇をてらうような特別なことは何もせず、コース内にもクラブハウスと同じ空気が感じられる。
これが本物の「名門」で、とにかく独特の雰囲気に1日中飲まれ続けていた気がする。いくら外国人の名匠が設計しようが、名門ゆえの重厚感が勝るということだ。
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●所在地 埼玉県狭山市柏原1984 ●TEL.04-2953-9111 ●開場 1913(大正)2年10月15日 ●設計者 大谷光明(改造:ギル・ハンス) ●ヤーデージ 18ホール、7215ヤード パー72