公序良俗を乱し、射幸心を煽る広告が垂れ流される異常
宝くじ・ボートレース「有害CM」を中止せよ
カテゴリ:クレーム・広報
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞と、東京五輪などの各種イベントの開催延期、さらにそれらの煽りを受け、国内の広告費は減少傾向にある。
日経産業新聞(7月30日付)によれば、日経広告研究所は2020年度の国内の広告費が〈19年度比で13%減になるとの見通し〉をまとめた上、特にテレビ広告は〈14・8%減の見込み〉という。
確かにテレビ番組の合間に流れる企業CMはコロナ禍の中でおとなしくなった印象を受ける。そんな最中でも、続々と新しいCMを出稿しているのが、「ボートレース」と「宝くじ」である。
ボートレースは国土交通省、宝くじは総務省が所管するが、これら「公営ギャンブル」のCMに関しては、編集部にも多数の批判的な意見が寄せられている。
本誌で「超広告批評」を連載中のクリエイティブ・ディレクター、池本孝慈氏は公営ギャンブルのCMをこう位置付ける。
「一般的に公営ギャンブル、ギャンブル性の高い遊戯についての広告は、その表現の自由が公序良俗、公共の福祉の観点から厳しく規制され、これは2つの言葉に集約できます。それが『公序良俗を過度に乱さない』『射幸心を過度に煽らない』です。しかし、そもそも『公序良俗』や『射幸心』の定義は曖昧で、提供・審査側の自主規制に委ねられています」
本稿では、特に批判的な意見が多かった2つのCMに絞り、「公序良俗」「射幸心」の2点を軸に、その問題性を検証する。
性的な意味ではない?
今年6月29日より公開されたのが、2020ボートレースCMシリーズ「ハートに炎を。BOAT is HEART」の第6話として公開された「ハートも骨抜き」篇である。
舞台はボートレース場で、公式ホームページによれば、俳優の田中圭が演じる〈ストイックな脱サラボートレーサー タナカ〉が、女優の武田玲奈演じる〈かわいいけれど凶暴な天才新人レーサー レナ〉に勝負を挑まれるという設定である。「次のレース、抜きますよ?」と宣戦布告したレナは、タナカを抜いて、勝利を収める。レースを終えたレナは、救命胴衣を脱いでビキニ姿になり、タナカを見つめながら「抜いちゃった......」と一言。タナカが骨抜き状態になる―という内容だ。
このCMに関し、編集部には〈明らかな下ネタ表現〉〈所管の国交省はこんなハレンチなCMを容認しているのか〉といった声が寄せられた。ツイッター上でも〈下品で不愉快〉と批判する声がある一方、〈これを下ネタと考える方が変だ〉とする賛否両論の意見が散見された。
ボートレースの広告宣伝を担う一般財団法人「BOATRACE振興会」によると、同CMは昨年に朝日広告社に発注、制作されたものという。同会に対し、CMの性的表現が指摘されている旨を質したところ、〈ボートレーサーが強くなるにはハートの強さが重要である、と示すことを意図して制作〉したものであり、〈性的な意味での発言ではありません〉とした。また〈CMについては各放送局の査閲を受けており、「公序良俗を過度に乱さない」「射幸心を過度に煽らない」等の基準から外れるものではないとの回答を得て放映〉しているとし、同CMに関するクレームはないと回答した。
問題視される「抜いちゃった」は性的な意味ではないとする同会だが、実際に性的な意味でとらえる視聴者がいることも事実。前出の池本氏が指摘する。
「一般的に性風俗領域で『射精をさせる』を意味するスラング『抜く』を使用したことは、目立ちにくい箇所ではあるものの、公序良俗においては決定的な問題であると思います。これは公営ギャンブルのジャンルのみならず、どのような商材であろうと、地上波テレビCMや新聞などでは許されない表現でしょう」
そもそも「抜く」という表現を用いたことが問題と指摘。そうしたことが起きたのは、組織としての倫理意識の低さが露呈した結果ではないかと推測する。
「『抜く』という表現は、制作者からすればいわゆる『スライス・オブ・レモン』(味付けで加える小さな演出表現=ギミック)であり、意識的に公序良俗を乱す表現を世の中に出したかったということではないでしょう。ただ、こういう低俗なスラングがモチーフとして広告会議に出て、そのことに異議を唱える者もおらず、世の中に出てしまったことが問題。単なるミスであろうと、その責任は問われるべきで、公営ギャンブルではなおさらです」(池本氏)
当該CMに関し所管の国交省、また、ボートレースの収益をもとに各種事業を展開する「日本財団」に見解を質したところ、ともに「ボートレースのCMについて相談を受けたり、確認を求められたり、意見を言う立場にない」旨の回答だった。多岐にわたる福祉や慈善活動を行う日本財団だからこそ、身内が垂れ流す有害CMには苦言を呈すべきではないのか。
確信的に射幸心を煽る
倫理意識の低さゆえに問題広告が世に出てしまったボートレースだが、意識的に低倫理のCMを垂れ流しているのが宝くじである。編集部には宝くじに関する情報が多数寄せられるが、特にCMの有害性を指摘する声が多かったのが、4月17日より放送されたジャンボ宝くじのCM「ジャンボ兄ちゃん教えて」篇である。これは俳優の妻夫木聡扮する〈ジャンボ兄ちゃん〉が吉岡里帆、成田凌、矢本悠馬、今田美桜ら扮する「きょうだい」にジャンボ宝くじの魅力を教えていくという内容のシリーズCMのひとつである。
同篇の内容はこうだ。成田凌が「お金が全てじゃない」と言い、吉岡里帆が「幸せはお金では買えない」と言い、矢本悠馬が「愛があればお金なんて」と言い、今田美桜が「夢があればお金なんて」 と言う。そして全員が走り出して「お金がー」「なんだー」と叫び、「とか言ってみちゃったりして」と、全員で長男役の妻夫木聡に「兄ちゃん、ジャンボ宝くじ教えて」と言い、長男は「待ってたぞ」「兄ちゃんがお前たちにジャンボの全てを教えてやる」と応じ、「私たちの宝くじ、はじまる。」で締められるものだ。
編集部に寄せられた意見の多くは「子どもに訴求する内容がエゲツナイ」「貧困層を馬鹿にしている」といったものだったが、冷静に視聴してみても「世の中、綺麗ごと言ったって結局はカネだ」と言われているようにしか思えない。なぜこのようなCMが制作されたのだろうか?
〈ご照会のCMについては、受託銀行である当行より広告代理店(電通)に制作を発注し、CM内容については、CM放映に先立ち各テレビ局に設けられた考査を経るとともに、当行、委託元が確認したうえで放映しております〉
そう答えたのは、みずほ銀行宝くじ部。なんでも〈個性豊かな5人きょうだいが、ユニークで賑やかなやりとりを繰り広げながら、「ジャンボ宝くじ」の魅力を知っていくというストーリー展開を通じて、今まで宝くじを買ったことがない若い世代の方を含めて、宝くじの魅力や楽しみ方を伝えていくCM〉といい〈射幸心を過度に煽らない〉ことに注意して制作しているという。
「この内容は、人は本音ではお金が欲しいと思っており、結局、幸せの多くはお金でできていると解釈できるが?」との問いには、〈「『お金が全てではない』と基本的には考えているが、その一方で『ジャンボ宝くじで夢を見たい』という気持ちも持っている」という心境を表現〉しているのだと説明するが、人はそれを「射幸心を煽る」と言う。しかし、みずほにはそのような指摘は寄せられていないという。
より厳しい監視が必要
このCMに関し、池本氏はこう指摘する。
「このキャンペーンに関しては、ストーリーのベースである『きょうだい』という設定が大事で、そのフォーマットでサマージャンボの特徴を伝えていくということに主眼が置かれています。つまり、若年層の購買を増やすことを意識したもの。庶民的な『よき人々』というキャラクターづくりは、低所得層の購買促進を狙ったものでもあるのでしょう。『射幸心を過度に煽らない』という歯止めは感じず、むしろ上手に煽ることに力を注いでいるように思えます」
また、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子氏はこう指摘する。
「宝くじはギャンブル以外の何物でもありません。その観点からすると、明らかに若年層の購買増加を目的に射幸心を煽る、このようなCMは不適切です。CM制作側の倫理観が非難されるのは当然ですが、そもそも高い倫理観を有しているなら、こんなCMが世に出ることはない。宝くじを含むギャンブルCMには、より強い規制が求められます。公共性を重視する第三者機関などによる監視などが必要なのでは」
所管が警察庁であるパチンコ、パチスロについては様々な広告規制が行われている一方で、営業主体が公共団体の公営ギャンブルや宝くじの広告は、「自主規制」であるのが、そもそもの間違いではないか。本稿でも判明した通り、CMの制作側に高い倫理観など、とても求められない以上、社会に有害と見なされるCMは一刻も早く中止させるべきである。