今井尚哉首相補佐官が狙う〝原子力回帰〟
経産省「脱炭素」で電力再編の策謀
カテゴリ:企業・経済
国民の不興を買いそうな政策を推し進めたい時、霞が関官僚は往々にしてその政策の核心部分は隠し、耳当たりの良い枝葉の部分だけをことさらに強調した美辞麗句を並べ立て、世論を煙に巻こうとする。経済産業省が今夏、唐突にぶち上げた低効率の旧式石炭火力発電の休廃止方針はまさにその典型と言えるだろう。
地球温暖化問題への対応を強化するとの名目で二酸化炭素(CO2)を多く排出する旧式の石炭火力約100基を2030年度までにフェードアウトさせるという。同時に官民一体で洋上風力発電の導入を本格化させるなど、再生可能エネルギーの主力電源化を推進するとアピールしている。経産相の梶山弘志は「エネルギー政策を思い切った脱炭素に転換していく」と大見得さえ切った。「環境省」に看板をかけ替えたのかと見紛うほどの豹変ぶりだが、「石炭火力の削減」と「再エネ拡大」の2枚のカードを切れば、難題となってきた温暖化対策と電力の安定供給の両立が一気に実現するかのような幻想を振り撒くのは、あまりに欺瞞に過ぎるだろう。
東日本大震災以降、原発再稼働は一向に進まず、石炭火力の発電比率は全体の3割にも高まっている。新型も含めて全国に約140基ある石炭火力の7割超もの稼働をストップさせ、天候次第で発電量が大きく変わる再エネでその穴を埋めるシナリオなら、御伽噺にもならない。マスコミが「日本もようやく脱炭素へ一歩踏み込んだ」と囃し立てているのを余所に、業界では「野党並みの荒唐無稽なパフォーマンス」(大手電力幹部)と冷笑する声が漏れている。
もちろん経産省には表向きの宣伝工作とは別に、今は隠しておきたい手の内がある。それは「脱炭素」という美名を隠れ蓑に原発の新増設解禁も含めた「原子力回帰」に道筋を付けることだ。
CO2非輩出を美名に経産省の「原発利権」温存
エネルギー戦略の転換を具体的に議論する総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)には、「御用学者」や「親密財界人」が集っている。会議では脱炭素や再エネ拡大に賛意が示される一方、出力調整がしやすく、発電コストも安い石炭火力の大幅削減に関して、電力不足への不安や電気代高騰への懸念が指摘されるのは間違いないだろう。当然、産業界やマスコミは騒ぎ立てるが、不安や懸念が高まれば高まるほど、「再エネと並んでCO2を排出しないゼロ・エミッション電源」(資源エネルギー庁幹部)である原発の存在感は高まり、原子力回帰へ永田町や世論を誘導できると算段している。