経済評論家・植草一秀氏が喝破する“安倍より危ない”菅義偉の正体

菅政権は「竹中平蔵直伝の"政商"内閣」だ

カテゴリ:インタビュー

kuekusa.jpg植草一秀氏(本人提供)

 9月16日に発足した菅義偉内閣の方向性を一言で表すとすれば、「特定の有力資本への利益供与を図る政商政治」ということになるでしょう。菅氏はアベノミクスをはじめとする安倍晋三内閣の継承を宣言していますが、そもそも安倍政権が目指したのは「グローバル巨大資本の利益極大化」でした。菅氏はこの路線をさらに〝純化〟させて、ビジネスと利権に特化した〝政商内閣〟になるのは確実であると見ています。

 というのも、安倍氏の場合、憲法改定や歴史認識の見直し、一応、拉致問題や北方領土問題も含めて様々な関心事項がある上で、国民から支持を取り付けるために経済を重要政策に位置付ける形でした。ところが、菅氏にはこうした政治理念や哲学はない。なので、その政権は経済政策の方向へのみ特化するというわけです。

 その意味を正確に理解するためにも、まずは安倍政権の経済政策を総括しておく必要があります。

 そもそも世界経済の背景には、アメリカ合衆国大統領の意向すら凌ぐ勢力、つまり多国籍企業や軍産複合体、あるいは金融資本などのグローバルな巨大資本が米国を支配しており、同時に日本をも支配しているという構図がある。第2次安倍内閣が7年8カ月もの長期政権を運営できたのは、まさにそうした「ディープ・ステート」とも呼ばれる巨大資本の利益極大化に務めてきたからなのです。

 日本でこうした勢力の手先となる政策を本格的に採用したのが、2001年当時、「構造改革」と表現された路線をひた走った小泉純一郎政権、中でもその司令塔の役割を果たした竹中平蔵氏でした。基本的に安倍氏もこれを踏襲しており、第1次政権こそ竹中氏の影が若干薄れましたが、第2次政権では構造改革を「成長戦略」と言い換えて、改めて路線を鮮明にしていきました。

売国アベノミクスの継承

 アベノミクス3本の矢の「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」のうち、核心は3つ目にあります。言葉の響きから良いイメージを持ちやすいのですが、問題は「誰の何の成長なのか」ということ。それは結局、巨大資本の利益の拡大でした。裏返して言えば、一般の庶民や労働者の不利益の助長です。この成長戦略は①農業を中心とする既存産業の自由化、②労働規制の撤廃、③公営事業の民営化、④特区の創設、⑤法人税の減税を5つの柱としましたが、いずれも日本の富を国際巨大資本に売り渡す〝売国〟的な政策です。

 たとえば①農業の自由化の実質は、既存の日本農業を破壊して国際資本が支配する農業に変えることでした。種子法廃止と種苗法改定、漁業法改定が畳み掛けるように行われ、グローバル資本が日本の食をも支配するような構造に転換されようとしています。

 TPP(環太平洋パートナーシップ)にしても多国籍企業の利益極大化の究極戦略であり、米国側から突きつけられていた「年次改革要望書」から延々と続く日本の経済植民地化の集大成でした。トランプ大統領はTPPから離脱しましたが、より日本が不利益を被る日米貿易協定(FTA)を押し付けている。菅氏の大きな任務は、このFTAを第2段階に進めることにあります。現在、一部関税などについては合意ができていますが、これからは各種規制や制度改革に踏み込んだステージに移行しますから、そこで菅内閣の本質が露わになるでしょう。

 ②の労働規制の撤廃も、「働き方改革」なんて綺麗な名前がついていますけれども、実際には長時間残業が合法化されたり、残業代なしの制度が拡大されたり、あるいは外国人労働力の輸入と増進が強行された。突き進めれば、解雇の自由化や最低賃金の撤廃へと進んでいくものです。

 あるいは③民営化にしても、実質的には公共サービスの「営利化」と呼ぶべき代物です。公共サービスというのは基本的に生活必需品であって、基本的に独占形態になりやすいので、誰がやっても必ずビジネスとして成立する。同時に、独占事業だと価格決定が不透明になりますから、仮に民間事業者が事業権を譲渡されれば確実に儲かるというカラクリ。さらに価格設定の自由化が行われると、高い価格を設定していけばいくほど、超過利潤を得られるのです。

 民営化推進論者は「民間が行うと効率が良くなる」と主張しますが、民間企業の目的は営利追求ですので、利潤の分だけ必ず価格が高騰します。つまるところ、巨大資本の利益を増やすための政策と言わざるを得ない。これが小泉政権から安倍政権にかけて全面的に展開され、空港や図書館、挙げ句には水道というところにまでコンセッション(公共施設等運営権)方式の名の下に広がっている。

 特に水道については、麻生太郎氏が13年に米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で「日本の水道はすべて民営化する」と宣言していました。ただ、欧州などでは民営化の弊害が大きく、再公営化の流れが加速している。グローバル巨大資本の利益極大化のために周回遅れでも日本を売り渡そうという強い意志を感じます。

......続きは「ZAITEN」2020年11月号で。

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