2021年02月号

危機管理のプロ弁護士が断言する

【特集・コロナ禍広報】「回答拒否」は絶対に得策ではない

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―2020年を振り返り、企業広報に関して印象に残ったことを教えてください。

 2020年は記者会見にまでに至るような大きな企業不祥事が少なく、広報が表に出て活躍する場面があまりありませんでした。ただ、社内で新型コロナウイルス感染者が発生したというケースに関しては、会社の信頼・信用に関わるので積極的に情報を出した企業が多かった印象です。

 20年6月からは改正労働施策総合推進法でパワハラの防止に関する規定を定めた、いわゆる「パワハラ防止法」が施行され、ハラスメントに対する体制を整え、対外的にきちんと説明できる整備が求められました。パワハラに関する広報の悪い例として挙げられるのが、社長が社員に対して数々の暴言を吐いたと『週刊文春』に報じられた東証一部上場のCasa(カーサ)です。文春の取材に対して執行役員は暴言の事実は認めた上で、「我々はコンプライアンス上、問題がないと思っています」と回答し、株価が急落しました。「監視義務が十分でなかった」「これを機に社風を改めたい」といったコメントを出してしかるべきところですが、それができなかった。しかも社長の暴言の音声まで公開されたのだから、コメントだけでなく、きっちり会見すべきでした。ここまでひどくなくても、メディアに対する回答がどう編集されて誰に伝わるか、深く考えていない広報担当者は少なくありません。

目立つ「取材拒否」

―本誌1月号の「ハラスメント特集」で約40社にアンケート取材を行いましたが、回答の濃淡が顕著でした。

 そもそも、パワハラ防止法の施行でハラスメントが注目を集める分野であり、その点に関する取材があり得ることは当然予測できるはずです。メディアのトレンドやSNSの論調を広報がしっかり掴んでいれば、自社ではどういう体制を取っていて、世の中の風潮をどのように社風に落とし込んでいるかは答えられるはず。技量のある広報担当者であれば、恣意的に編集されにくい回答や、炎上しにくい回答もできます。もちろん、言い方の技術や、建前だけにして欲しくはありませんが、少なくとも答えようという姿勢がないのはまずい。「広く知らしめる」広報の基本を忘れてはなりません。

―取材に対して完全無視を決め込む広報もいます。

 メディアの読者は誰なのか、を意識した広報ができると、広報担当者の姿勢もその内容も変わってくると思います。メディアの先には同業他社や転職希望者、将来就職するかもしれない学生たちが見ています。そこが見えていないと、自社とメディアという二項対立でしか物事を考えられなくなる。メディアを敵と捉え、「どうせ批判されるから」という姿勢だと、なるべく答えたくない、無視しようとなってしまいがちです。

 日頃から主な雑誌はざっと目を通しておき、メディアによって企業がどのように切り取られてどのように批判されるのか、企業がどのような問題に対してどこまで広報しているのか、広報はその感性を養っておくべきです。

―「回答拒否」という事実上の取材拒否も目立ちます。

 今はコンプライアンスありきの時代なので、メディアはそこをベースにして批判すべき事案は批判します。広報が上手く回答したからといって批判されない、という時代ではないことを理解して欲しい。仮に都合の悪い取材を受けたとしても、ノーコメント、回答拒否は止めた方がいい。隠すと余計批判されるし、回答拒否ということは「自由に書いていい」という許しを与えることになり、メディアが他で取材した内容に基づいてのみで記事が書かれてしまう。特に被害者がいる案件では、被害者の言い分だけ、周辺関係者の言い分だけが掲載され、自社が主張したいことは一切掲載されなくなります。短くてもいいから、言い分はしっかり言うべきです。すぐに答えられない場合は、せめて「社内で検討した結果、調査中のため今はお答えできません」などといった一言を必ず伝える。回答拒否や無視は絶対に得策ではありません。

「広報の基本」を忘れるな

―中には恫喝まがいの対応をしてくる広報もいます。

 たとえば「意に沿わないことを書いたら法的措置を取る」等と、恫喝する広報担当者もいるようですが、その対応は最悪です。広報の目的はコミュニケーション。丁寧にコミュニケーションを取ることで取材者に伝わり、信頼回復や信用維持につながることもありますが、恫喝ではそれは期待できない。また、記事の前提となった事実がコンプライアンス上問題があるのであれば、どうコミュニケーションを取っても批判されるので恫喝は意味がありません。広報は「私たちのことを知って欲しい」というくらいの姿勢で臨む方が良いのです。

―明らかにやる気のない広報が増えてきた印象もあります。

 SNSの普及が広報の消極的な姿勢につながっている側面はあると思います。全体を見たら趣旨がまったく違うのに、回答が都合よく切り取られてツイッターなどで炎上する。そんなケースが相次ぐと、「炎上したら自分の責任になる。だったら回答しない方がいい」と考える広報担当者がいてもおかしくありません。

 加えて、ネットメディアへの対応の見極めが難しくなっているということもあります。老舗雑誌であれば、雑誌の性質が分かっているので、どんな回答をすればどんな記事になるかは想定できますが、ネットメディアの性質は分かりづらい。そうした感覚を雑誌にも持ち込み、回答しにくい取材は新聞や業界紙のみに限定して回答し、他のメディアには線引きを設けているケースもありそうです。

―企業広報に期待することは?

 メディアへの対応だけでなく、「会社としてここは意識を改めた方がいい」「世の流れから見てここは変えるべき」と、広報から経営層に提言して欲しいですね。社内のことを社外に発信するだけでなく、社外の感覚を社内に取り入れることも広報の役割。商品のPRだけでなく、社内の体制、企業姿勢も含め、広く知らしめることが広報。広報の役割、広報の意味について今一度認識を改める必要があると思います。

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