2021年04月号
“叙勲”を心待ちにする老財界人たちの「憩いの場」
【特集】「経団連」はもういらない!
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就任当初は、久方ぶりの「大物財界総理」と持て囃された経団連会長の中西宏明。しかし、リンパ腫を発症してからは精力的な財界活動はままならず、リモート会見で〝怪気炎〟を上げるのが精一杯の状況だ。そんな中西を見かねて、経団連内部では「ポスト中西」を見据えた蠢動も起きているという。しかし、待て。不運とはいえ、会長が〝病欠〟を続けていられるのは、経団連の存在がいかに軽いかという証左でもある。叙勲をはじめ、「一流財界人の仲間入り」の虚飾しか〝効用〟のない経団連など、もう時代の使命を終えている――。
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順天堂医院(東京都文京区)での入院生活が長すぎて、世の中の空気を感じられなくなっているのか。それとも忘れ去られることが怖いから目立ちたいのか。このところ、経団連会長の中西宏明がすこぶる〝舌好調〟だ。病院の特別室からオンラインで姿を見せては、爆弾コメントを連発している。
まずは2月8日の定例記者会見。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長だった森喜朗の女性蔑視発言について問われ、「日本社会っていうのは、ちょっとそういう本音のところが正直言ってあるような気もします。(森発言は)それがパッと出てしまったということかも知れませんけど。まあ、こういうのをワッと取り上げるSNSってのは恐ろしいですよね、炎上しますから」と語った。モニター越しの中西は、リンパ腫の治療もあり頬がややこけていたが、なぜかニヤニヤしていた。
言うまでもないが、「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」という森の発言が大きな非難を浴びたのは、五輪憲章に明記された「いかなる種類の差別も認めない」というポリシーを、組織委トップが理解していなかったからだ。中西はそれを「日本社会の本音」とスルーしただけでなく、批判を軽く揶揄したのだった。
その結果、SNS界隈では中西が〝想定〟した通りの反応が飛び交った。
〈経団連会長かつ日立の会長でさえも『SNSは恐ろしい』程度の雑な認識になっちゃうのか〉
〈日本社会の本音は女性蔑視、とまで言っちゃってますよ。恐ろしいのはこういう人たちが権力を握っていることだよ〉
などとバッシングが拡大。立憲民主党代表代行の蓮舫は、ツイッターで〈ここにもまだこんな考えの人がいた〉と呆れていた。
また、経団連と連合による今年の労使交渉(春闘)が1月26日に始まったが、中西は翌27日に連合会長の神津里季生と会談。「日本の賃金水準がいつの間にか、経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になっている」と発言した。確かにOECDの統計データで「平均年収」を見ると、日本は2018年に約4万ドルで19位だったが、19年は3万8000ドルで24位だった。韓国に抜かれ、OECDに加盟するアジア諸国では最下位に転落している。
そもそも、こうした賃金の傾向を差配してきたのは経団連のはずだ。にもかかわらず、まるで他人事のような中西の指摘に、SNS上は「お前が言うな」「マッチポンプ」の大合唱。落語家の立川談四楼もツイッターで「政界とグルになって非正規労働者を大量に生み出したのはあなただろうが。どこが『財界の総理』なんだよ」とご立腹だった。
〝分裂〟招く不規則発言
その財界総理の威光があるなら、世論はともかく、経済界くらいはまとめられるはずだ。ただ実際は、分裂の機運を自ら高めている。昨年12月21日の定例記者会見で、地球温暖化対策として二酸化炭素の排出量を価格付けする「カーボンプライシング」の導入検討について、「拒否するところから出発すべきではない」と表明した。
それまで経済界は、カーボンプライシングを「国民や企業の経済活動に直接的な負担を追加的に課す」と捉え、反対する姿勢で一致していた。中西は「これまでは有効に働いておらず、税制改正を伴う必要もあり、経済界としては慎重な立場だった」と釈明しつつ、首相に就いた菅義偉が2050年の温室効果ガスの実質ゼロを掲げたのを受け「制度としてワークするか議論していくべきだ」とスタンスを180度変えた。
中西によるまさかの変節を、経済団体は一斉に警戒。カーボンプライシングについて、 日本商工会議所会頭の三村明夫は「企業はすでに国際的に見ても割高なエネルギーコストを負担しており、高止まりする電力料金は経営に影響を及ぼす」と指摘した。経済同友会代表幹事の桜田謙悟も「社会が受容するには、大きなハードルがある」と制度化に難色を示した。
経団連でも、事務総長の久保田政一らが「(中西は)あくまで議論や検討はした方がいいという考えであり、容認する趣旨ではない」と火消しに追われた。しかし、中西はそんなお膝元のドタバタを一顧だにせず。2月8日の記者会見では、ダメ押しで「日本のエネルギーコストを上げるだけというポジションに立つのはナンセンス」と焚きつけた。
......続きは「ZAITEN」2021年4月号で。