2021年06月号

79歳会長と75歳副会長が水面下で“鍔迫り合い”

岩谷産業「老老経営」後継に"失脚専務"復活の暗澹

カテゴリ:企業・経済

 昨年10月、首相菅義偉が打ち出した「2050年のカーボンニュートラル(脱炭素)」宣言で俄かに脚光を浴びた企業のひとつに岩谷産業がある。同社は14年に国内第1号の商業用水素ステーションを開業。「水素銘柄」の代表格で政府の脱炭素宣言後に株価は急騰した。だが、2人の〝老人〟が20年以上も経営を牛耳る社内は情実人事が蔓延る「人材の墓場」(同社関係者)。水素ビジネスに注目が集まっても、有望企業とはとても言えない惨状なのだ。


「水素」に血道の牧野会長


 岩谷産業の株価急騰が際立ったのは昨年12月8日。7日にトヨタ自動車やENEOS、三井住友フィナンシャルグループなど88社・団体が参画する「水素バリューチェーン(VC)推進協議会」が発足し、同社会長兼最高経営責任者(CEO)の牧野明次(79)がトヨタ会長の内山田竹志らとともに共同代表者の座に就いたと報じられたのがきっかけだった。

 株価は一時前日比13%高の6270円に上昇。約30年ぶりの高値となった。年明けの1月13日には7470円に高騰。3700円台で推移していた昨年8月半ばに比べ「ここ5カ月で株価は倍化した」と市場関係者は囃し立てた。ところが、これを境に岩谷株の動きは急速に鈍化。4月20日現在の株価は6740円である。

「政府の唐突なカーボンニュートラル宣言があり『脱炭素銘柄を探せ』と市場関係者が躍起となった中で岩谷にスポットが当たった。しかし、同社のガバナンスを見ると、不安材料が多過ぎる」と大手証券系アナリストは解説する。

 創業者の岩谷直治(05年死去)が戦時中の1941年に油脂メーカーの余剰水素を溶接向けに売り出したのが日本の水素ビジネスの草分け。同社は水素の製造から輸送・貯蔵まで手がけ、圧縮水素と液化水素で国内トップ。14年のトヨタの燃料電池自動車(FCV)「ミライ」の発売に合わせ、国内初の水素ステーションを開業。昨年末時点で全国38カ所がオープン、15カ所を建設・計画中という。

 だが、「水素ビジネスのビッグバン」への試金石とされるFCVの普及がさっぱり進まない。16年には二番手のホンダが「クラリティ」を売り出したが、昨年末までのFCV販売台数は4337台(日本水素ステーションネットワーク調べ)。5年前、前首相の安倍晋三はアベノミクスの一環でFCVを取り上げ「20年中に4万台の普及を目指す」と花火を上げたが、空砲もいいところだ。

 岩谷産業社長の間島寛(62)は昨年12月、経済誌のインタビューで最も利用台数が多いイワタニ水素ステーション芝公園(東京・港)でも利用台数は「1日に30台弱」とし「水素についてはすぐに利益貢献するのは難しい」と苦しい採算状況を明かした。一方、会長の牧野の鼻息は荒い。水素VC推進協の〝言い出しっぺ〟を自認し「日本で水素社会をつくる」と伝道師さながらに推進協加入を働き掛け、参画企業・団体を195に増やした。目下の課題は水素ステーションの大型化。トラックやバスの対応が可能な1000平米規模の建設が必要という。

 牧野は00年の社長就任以来、21年間にわたり岩谷トップに君臨する。表向きは「ワンマン経営者」だが、実情は副会長の渡辺敏夫(75)が対峙する〝二頭体制〟。80年代以降の労使対立や労組の内紛に乗じ、参謀役の渡辺が牧野を当初は労組委員長に、その後は経営トップに推し立て、ともに出世の階段を駆け上がっていった過程は本誌20年1月号《岩谷産業「会長vs.副会長」の老老対決》で詳報した通りだ。

......続きは「ZAITEN」2021年6月号で。

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