2021年06月号
法令に抵触しかねない〝奇手〟まで飛び出す―
天馬「骨肉の争い」にグレーなディール
カテゴリ:企業・経済
衣装ケースの「Fits(フィッツ)」などを製造販売する天馬(東証一部上場、東京・赤羽)の創業一族内の抗争を巡り、ある取引に注目が集まっている。天馬といえば、昨年分裂した創業家同士が株主総会で委任状争奪戦(プロキシーファイト)を繰り広げた経緯がある。第2ラウンドともいえる6月の株主総会に向け、再び両陣営の動きが活発化。創業家や投資ファンドの思惑も渦巻く中、法令に抵触する疑いのある〝禁じ手〟が繰り出された可能性がある。
天馬は創業一族の4兄弟が1949年に東京で日用品雑貨などの製造販売を始めたのがルーツ。早くにプラスチック事業に進出し、海外展開する大手OAメーカーに部品を供給する。2020年3月期の売上高は前期比1・2%増の857億円で、純利益は同11・2%増の25億円。借入金ゼロで、390億円余の利益剰余金を積み上げる好財務企業である。
4兄弟は順に社長を引き継ぎ、会社を発展させてきたが、1991年の東証上場以降は主に二男家と四男家が経営に関与してきた。二男家の2代目、金田保一(76)は昨年まで会長を務め、長男の宏(43)は現在、常務執行役員。四男家では、前名誉会長の司治(87)が3代目社長。司の長男、久(57)は昨年まで専務を務めた。一方、司は後継社長に2代続けて銀行出身者を招聘。6代目の前社長に生え抜きの藤野兼人(68)を起用するなど「脱同族経営」を進めてきた。
その両家の抗争が表面化したきっかけが、一昨年発覚したベトナム子会社を巡る贈賄問題である。第三者委員会の調査報告書によると、17年と19年にベトナムの税当局から指摘された多額の追徴税を減額してもらう見返りに計2500万円の賄賂を支払ったとされる。報告書は、賄賂の受け渡しを追認した前会長の金田や前社長の藤野に加え、当時常務取締役として虚偽の経費処理を主導した宏の責任も認定している。
こうした同族経営による深刻なガバナンス欠如を重く見たのが司家だ。昨年5月、非創業家の執行役員8人を取締役に選ぶよう求める株主提案を提出。一方の二男家は、贈賄問題の引責で金田と藤野の退任を決めたものの、宏を取締役候補とする会社提案を出した。宏らは「監査等委員を取り込み経営に介入している」と司治を批判し、名誉会長職も解いた。
この対立はより泥沼化した。監査等委員会が前代未聞とも言える会社提案への反対を表明。一方、「物言う株主」として知られる米ダルトン・インベストメンツは会社提案の支持に回った。
.....続きは「ZAITEN」2021年6月号で。