ZAITEN2021年06月号

元NHK記者が語る「公共放送の問題点」

【NHK特集:全文掲載】相澤冬樹「幹部人事こそ"ガラガラポン"に変えるべき」

カテゴリ:インタビュー

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 NHKは昔から政治との関係で問題を抱えていましたし、放送法による宿命でもともと権力に弱い体質がありますが、ここ数年の報道を見ると、「こんなに露骨だっただろうか?」と疑問に思います。
 たとえば、聖火リレーの生配信で、五輪に反対する人たちの声が聞こえないよう音声を消した件。これまでも「映らないようにする」という〝配慮〟はしていたと思います。しかし、逆に言えば、「カメラに入ってしまったものは仕方がない」というスタンスではあった。ところが、今回は意図的に「入ったものをなかったことにした」わけです。ここまでするかと驚きました。
 2019年1月の『日曜討論』で、米軍普天間基地の辺野古移設のための埋め立てを巡り、当時の安倍晋三首相が「土砂投入にあたってサンゴは移している」と語ったことがありました。全くの事実誤認ですが、NHKは収録放送だったにもかかわらず、首相のフェイク発言を垂れ流しました。
 政権に不都合なこと、権力が嫌がることは、できる限り避ける。その姿勢がこの数年でますます表面化していると感じます。

意図的な虚偽は許されない

 一連のキャスター人事も各メディアに散々取り沙汰されましたが、本当のところは分かりません。『ニュースウオッチ9』の有馬嘉男キャスターは4年、前任者の大越健介アナは5年ほどMCを務めました。異動してもおかしくないタイミングだ、と言われればそうかもしれません。
 しかし、よりにもよってなぜ
〝今〟番組から外すのか? 有馬さんは日本学術会議問題を巡るインタビューで菅義偉首相を激怒させ、大越さんは集団的自衛権などを巡り安倍政権に批判的で官邸に嫌われていたと言われます。『クローズアップ現代』のキャスターだった国谷裕子さんも当時の菅官房長官に睨まれたのが降板の原因と指摘されました。権力側の機嫌を損ねるような発言をした人が、そのすぐ後に異動となれば、政権への忖度だと思われても仕方ないでしょう。
 あるいは最近、元NHK記者で、現在は「インファクト」編集長の立岩陽一郎さんが、「NHKが「『クロ現』の終了を決定」という趣旨の記事を公開しました。この記事を受け、NHKは「まったくの事実無根」なる見解を表明し、削除を求めるとしましたが、立岩さんは「事実無根ではない」とする反論記事を出しています。関係筋から聞く限り、彼の記事に書かれていることは、少なくとも「事実無根」ではないと断言できます。クロ現の終了は現時点では正式決定していないかもしれませんが、打ち切りに向けてパイロット版をつくろうとしているのは事実だからです。
 事実であることに対して「事実無根」と言うのは、嘘をつくことになります。報道機関として、これは非常にまずい。誤って間違いを犯すことはあっても、意図的な虚偽は許されません。
 この件を見て思い起こしたのは、私自身のケースです。私は森友事件を取材している最中に記者職からの異動を命じられ、18年8月にNHKを退職し、同年12月に『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)を出しました。
 その時、NHKは定例会見で、「主要な部分において虚偽の記述が随所に見られる」と発言しました。当然、「どの部分が虚偽か?」と記者から質問が出ましたが、これには「取材や制作に関することはお答えできない」と突っぱねて、一切明らかにしていません。今年1月の同書の文庫化にあたり、改めて文藝春秋がNHKに見解を質しましたが、広報からは「すでにお示ししている通り」と木で鼻を括った返答のみ。強調しておきますが、同書に関して私は、NHKから内容証明はおろか、抗議電話の一本も受けたことがありません。にもかかわらず、NHKは「虚偽」と言い続けている。もはや誹謗中傷の域です。

NHKの自壊を危惧する

 立岩さんの記事に対する「事実無根」なる表明を見て、私の時よりもさらに酷くなっていると思いました。局内の人間ならば、明らかに無理な言い訳であると分かるはず。広報担当者は自分の頭で考えず、上の言う通りに従ったのでしょう。いかに組織として劣化しているかを表しています。
 そのひとつの要因は、縦割り人事による組織の硬直化でしょう。NHKの理事や局長をはじめ中間管理職以上のポジションは、個人の素質や実力とは別の論理で、事実上、出身部門によって割り振られてきました。つまり、報道局長ならば記者出身者、制作局長ならディレクター出身者と、ポジションが既得権益のごとく固められています。私はこうした慣例を止めて、上に行けば行くほど、出身セクションに縛られない〝ガラガラポン人事〟に変えるべきだと思っています。とりわけ、報道局は政治との結びつきが強い。むしろ、報道トップは記者出身者でない方が、健全になると思います。
 例を挙げると、私がNHKを辞めた時の報道局長である小池英夫さん。若手時代から特ダネ記者として有名で、東京に赴任して以来、政治部の主要ポストを歴任、昨年には報道担当の理事へ昇進しましたが、杉田和博官房副長官などの官邸幹部とは長年、記者と取材者の関係にあります。つまり若手時代から知られているからこそ、どうしても上下関係が生じる。結果的に管理職になった時に圧力がかかって、忖度報道が引き起こされてしまうのです。
 NHKにはいろいろな人材がいます。報道幹部に営業出身者が就いてもいい。営業は受信料の契約のために、視聴者と最前線で向き合うわけですから、そうした人たちが報道局長になれば、政権忖度から視聴者忖度への変化が期待できる。それこそ、公共放送が本来あるべき姿のはずです。
 私は、退局した今でも人一倍、NHKを愛しています。少なくとも、今のNHK幹部よりも。上の人たちは、自分がいる間だけなんとかなればいいのでしょうが、こんな報道を続けていれば、NHKはますます信頼を失い、やがて誰も受信料を払わなくなって、公共放送という存在自体が終わってしまう。NHKの自壊を、心から危惧しています。

あいざわ・ふゆき―1987年にNHKに入局。森友報道に関するスクープを連発後、18年にNHKを退職。著書に『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)

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