2021年07月号
月刊ゴルフ場批評45
「嵐山カントリークラブ」批評
カテゴリ:月刊ゴルフ場批評
嵐山といえば京都だが、「嵐山カントリークラブ」は「アラシヤマ」ではなく「ランザン」と読む。
元は比企郡菅谷村という地名だったが、1928年に同地を訪れた林学者の本多静六氏が、山々を背にした渓谷の美しさを京都の嵐山になぞらえ、「武蔵嵐山」と呼んで評判になったのが発端。67年の町制施行の際、正式に「比企郡嵐山町」となった景勝地だ。
もう一つ面白いのは、同CCのルーツが東雲ゴルフ場にある点。東京江東区に81年まで存在し、井上誠一設計の人気コースだった。
しかし、湾岸道路などの建設によって閉鎖を余儀なくされ、会員は3派に分かれた。結果、栃木県の現東雲GC、長野県の大浅間GC、そして嵐山CCの3コースに分散することになった。
中でも嵐山CCは、当時の現職総理大臣である岸信介が初代名誉会長に就任したことで話題になった。コース設計は名匠・小寺酉二、クラブハウス設計はフランク・ロイド・ライトの愛弟子、天野太郎と、とにかく豪華布陣。オープン当時から血統書つき、本来なら敷居の高い名門コースだが......。
実際に訪れると従業員はフランクだし、上から目線の高圧的な注意書きもない。フロント
からマスター室、レストラン、キャディまで、自然体の応対が心地いい。ゆったりとした自然がなす業か。
特に、レストランからアウト、インともスタートホールが見渡せるのは最高だ。メンバーは前の組のスタートを見送り、それから席を立つという、時計に頼らない理想のスタイル。料理も変に凝ったメニューはなく、リーズナブル価格。それでいて和洋どちらを頼んでもハズレがない。
コースは適度なアップダウンの林間丘陵。原地形を生かしたレイアウトで、ショットバリエーションを要求される。玄人好みのコースだがフェアウエーは広く、せせこましいホールはほとんどない。
要注意なのはグリーンだ。A、Bどちらのグリーンもコンパクトなうえ、表面を硬く仕上げている。フェアウエーからスピンの利いたボールを打たないと、まず止まってくれない。クラシックなコースだから、グリーン奥にこぼしたら完全にアウト。女性やシニアはお手上げだろう。
トーナメントでもあるまいし、こんなに硬くする必要はあるのかと、疑問に思って尋ねたら、ローラーをかけたりしているわけではなく、米ぬかを散布して土壌の微生物がその米ぬかを食べて活動を活発にし、結果として土壌が「詰まる」「締まる」グリーンキーパーこだわりの「米ぬかグリーン育成法」により、土壌そのものを改善した結果だという。
夏には気温40度近くなる猛暑エリア。ベント芝の適地とはいえず、1グリーン主義の小寺でも2グリーンにせざるを得なかった。過去には一夜にしてグリーンの芝が消滅といった苦難もあった中で、独自の育成法が発達したのだろう。
長引くコロナ禍で心もすさんでいく中、憂さを晴らすのにピッタリな舞台だが......。腕に自信のない人は、グリーンだけはトーナメント仕様と割り切り、スコアは気にしないことだ。
●所在地 埼玉県比企郡嵐山町鎌形1146 ●TEL. 0493-62-2355 ●開場 1962(昭和37)年10 月21日 ●設計者 小寺酉二 ●ヤーデージ 18ホール、6764ヤード(Aグリーン使用時)、パー72