2021年07月号
半沢頭取を蔑ろにする三毛会長隷下の「慶応三田会軍団」
三菱UFJ「半沢頭取をガン無視」三毛チルドレンの横暴【7/1公開】
カテゴリ:企業・経済
【2021年7月1日編集部注記】
2021年7月1日発売の本誌「ZAITEN」8月号で《三菱UFJ銀行「最凶人事部」の陰惨支配》を掲載。その前号に当たる同7月号掲載で、三菱UFJ銀行の経営"奥の院"を描いた《三菱UFJ「半沢頭取をガン無視」三毛チルドレンの横暴》記事を全文無料公開します。
なお、8月号掲載の《三菱UFJ銀行「最凶人事部」の陰惨支配》はこちら。
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池井戸潤の「半沢直樹」ブームにあやかって、名字だけは一般に知られる半沢淳一頭取。しかし半沢に実権はなく、いまやMUFGの"天皇"を志向する会長、三毛兼承の取り巻きに侮られる始末――。
金融のデジタル化やESG(環境・社会・ガバナンス)経営の推進で「世界が進むチカラになる。」という大風呂敷な新中期経営計画(2021~23年度)を今年4月にぶち上げた三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)。「メガバンク初の理系トップ誕生」と持て囃されたMUFG社長の亀澤宏規(1986年旧三菱銀行入行、東大大学院理学系研究科修士課程)と、同期入行の有名作家、池井戸潤原作の人気テレビドラマ「半沢直樹」にあやかり、お茶の間でも〝名字〟が知られる三菱UFJ銀行(MUBK)頭取の半沢淳一(88年同、東大卒)のコンビが、この新中計を基に経営改革を進めるはずだった。
しかし、実際は12年の頭取就任から8年にわたり「天皇」として君臨した平野信行(74年同、京大卒)との権力バトルの末、MUFG会長ポストをもぎ取った前頭取の三毛兼承(79年同、慶応大卒)が院政支配を画策して暗躍。グループ中核のMUBKでは、三毛の子飼いで代表取締役専務執行役員の林尚見(87年同、慶応大卒)を筆頭とする慶応大閥の「三毛チルドレン」役員たちが半沢の意向を〝ガン無視〟するかのように振舞っているという。
「13人抜きの大抜擢」も災いし、自分より年長や同期の三毛チルドレン役員に囲まれた半沢は、半沢直樹のように倍返しで対抗することもできず、早くも「籠の中の鳥」(有力OB)といった色彩を強めている。本来なら、グループトップの亀澤が半沢を守るのが筋だろう。だが、頭取経験なしにFG社長に就いた亀澤も社内では「人寄せパンダ」と軽んじられるほど権力基盤が脆弱で、三毛チルドレンの横暴を抑えられる腕力などあろうはずもない有り様という。
就任直後のトホホな内輪話
「(東京・丸の内の)銀行本館を建て替え、そこにMUFGや信託銀、証券も含めてグループの本部機能を集約したい。現在は丸の内と大手町の9つのビルに分かれるグループ本部の人員が1カ所に集まれば、管理コストを引き下げながら、顧客への提案力を高められる」――。4月の頭取就任に合わせて行われた半沢のインタビュー。東大卒・経営企画畑という「旧三菱銀の王道エリート」の久々の登板に、大手マスコミ各社はどんな大胆な経営ビジョンを打ち出すのかと、身構えていた。
しかしフタを開けてみれば、半沢が提供した話題は銀行本館の建て替えという「トホホな内輪話」(大手紙経済部記者)。各社の記者は「見出しが立たない」と困った様子だった。関係筋によると、これでさえ、広報部が「何かインタビューの目玉になるものはないか」と探しまくった末に半沢にあてがった〝ホットニュース〟だというから、先が思いやられる。
晴れの就任インタビューで半沢はどうしてこんな失笑を買う羽目になったか。その最大の理由は、MUBKの経営を三毛チルドレン役員に〝実効支配〟されているからに他ならない。そんな異様な状況を生んだ背景には、頭取人事を巡る旧三菱銀時代から続く独特の因習が影響している。それは新頭取の指名権が会長(平野)の専管事項である一方、副頭取以下の役員体制には前頭取(三毛)の意向が強く反映される不文律である。有力OBによると、「絶対権力者をつくらないようにする知恵」だったというが、平野と三毛が陰湿な権力争いを演じる中、今春の頭取交代人事ではこの因習が完全に裏目に出た。
平野が新頭取に半沢を推す一方、三毛は慶応三田会閥の林を自らの後継にしようと画策したのが発端だ。結果は因習に倣って半沢頭取誕生となったが、狡猾な三毛は副頭取以下の人事に影響力を行使して「三毛三田会」人脈の有力役員の温存を図った。実際、MUBKの新ボードメンバーには、三毛の全国銀行協会会長職も支えた参謀格の林のほか、慶応大ラグビー部出身で副頭取執行役員の谷口宗哉(85年同)、常務執行役員の亀田浩樹(88年同)という三毛三田会の有力幹部が居並ぶ。しかも、この3人にはいずれも代表権が与えられており、束になれば、MUBKの経営方針決定に際し、頭取の半沢の意向を覆すことも可能な仕掛けとなっている。
三毛チルドレンの〝四人衆〟
3人はいずれも「百戦錬磨でアクが強い」(中堅幹部)のが特徴だ。半沢と同期入行組の亀田は主にシステム畑を歩みCIO(最高情報責任者)を務めたが、三毛の威光を借って、都銀時代から「システム界の第一人者」とされてきた旧UFJ銀行(旧三和銀行)出身の元MUBK専務執行役の村林聡ら専門人材の排除に専念。「システム部門でやりたい放題を重ねてきた」(村林周辺筋)。
このほか、旧三菱財閥系企業との取引を含む「営業戦略上の最重要ポスト」である東日本拠点統括を務める常務執行役員の関浩之(90年同)も慶応大出身の三毛チルドレン。関は人事部長を務めたキャリアから行内で顔が広く、中堅幹部らを手なずけることに長けている。今では会長の三毛の意向を部長や支店長をはじめ行内に幅広く流布する「宣伝相の役割を担っている」(関係筋)。林、谷口、亀田も人事部経験者で、いまや「慶応・人事畑」が、MUBK内の権力の表徴となっている。
三毛は頭取時代に「銀行の収益構造改革に専心する」との言葉とは裏腹に、同窓の慶応大出身者を情実人事で引き上げる三毛チルドレン支配の構築に腐心してきた。事実、現役員の布陣は本誌20年1月号で報じた通りとなっている。さらに三毛は、85年以降の入行組では1期に1人を三毛三田会から役員に登用。自らの勢力培養に注力した結果、頭取となった半沢に対する三毛チルドレンによる包囲網が完成したというわけだ。
もともと三毛は「旧三菱銀出身のプリンス」とされた小山田隆(79年同、東大卒)が心身症で頭取を途中降板したことに伴う「中継ぎ頭取」(平野周辺筋)。にもかかわらず、三毛がここまで用意周到に自らの権力基盤を築こうと動いたことには舌を巻く他ない。あるいは、小山田の陰にあって屈折してしまった自己顕示欲の為せる業なのだろうか。
関係筋によると、4月以降のMUBK新体制の取締役会では、半沢が海外戦略や国内の営業改革などについて自らの構想や方針を示しても、三毛チルドレンの取締役から反対するような発言が出ることもしばしばといい、意思決定システムは混乱を来たしているようだ。三毛チルドレンの横暴を前に多勢に無勢の状況に陥った半沢は、「行内随一の人格者」(中堅幹部)であることも手伝って激高することもできず、淡々とやり過ごすしかないのが実情という。ただし、頭取に祭り上げられた状況が今後も続けば、ストレスに苛まれることは必至だろう。有力OBの間では「平野の独断に振り回されて、精神的に追い詰められた小山田君の二の舞にならないか」と懸念する声が早くも出始めている。
「半沢崩壊」を夢想か...
ところが、三毛チルドレン役員たちには、そんな半沢の忸怩たる思いを気にする様子は全く窺えない。特に、三毛頭取時代に経営戦略部門トップのCSO(最高戦略責任者)を任された林は一時、次期頭取の最有力後継者として取り沙汰されていた経緯があるだけに半沢に対する怨念が深い。関係筋によると、昨年12月に平野の意向で「半沢頭取」が内定する直前まで、林は自分が次期頭取に就くと信じて疑わなかったという。周囲に「トップになるには見聞を広めなければならない」などと嘯き、著名な大学教授やIT企業経営者らに片っ端から〝電凸〟して面会を取り付けていたというから余程舞い上がっていたのだろう。
しかも林は「隣国の独裁者ばりの強面」(周辺筋)と評価されるくらいのパワハラ気質。三毛の庇護の下、今後も半沢の方針をガン無視するような不敵な態度を取り続けるものとみられる。それで半沢が潰れれば、三毛の場合と同様に「中継ぎ」であれ、頭取ポストが転がり込んでくる可能性があるなら、なおさらだろう。
半沢周辺には「三毛チルドレンの横暴が目に余るようになれば、FG取締役に残った平野が介入してくれる」との淡い期待もあるようだ。だが、有力OBによれば、最近の平野は旧三菱財閥系企業の集まりである「三菱金曜会」の活動にご執心。「昨年末に亡くなった槙原稔(元三菱商事会長)に代わる三菱グループ総帥の座に就くことを熱望している」というだけに、半沢と三毛チルドレンの暗闘にあえて関わろうとするかどうかは判然としない。そもそも平野が介入してくれば、三毛とのバトルが再燃し、経営の混乱に拍車が掛かるだけとも言える。
MUFGは21年3月期の実質業務純益(傘下銀行合算ベース)が前期比3%減の5204億円と低迷。ライバルの三井住友FG(同10%増の6651億円)に1000億円以上の差を付けられた上、「メガバンク万年3位」と揶揄されてきたみずほFG(同13%増の5802億円)にも負ける凋落ぶりだった。さらに、純利益の3分の1超を米証券大手モルガン・スタンレーに依存する有り様。本来なら、全社一丸で巻き返しを期さなければならない局面だが、経営陣が権力闘争に感けているようでは、厳しいリストラを押し付けられた社員の士気は一層低下、組織の腐食が進むだけだろう。
5月3日にはリーマンショック後にモルスタへの9000億円の出資を主導した元頭取の永易克典(70年同、東大卒)が永眠した。トップ就任時の会見で「国際金融界において、名誉ある地位を占めたいと思う」と、日本国憲法前文をもじってグローバル金融グループ入りを目指す決意を表明した永易が、後輩たちの醜悪なる権力争いを草葉の陰で嘆いていることだけは間違いない。(敬称略、肩書等は掲載当時のもの)