ZAITEN2021年9月号

島根原発を巡るトラブル頻発も〝反省なし〟

〝不祥事常習企業〟中国電力が「原発再稼働」の恐怖

カテゴリ:企業・経済

 原子力規制委員会(規制委)は6月23日、中国電力島根原子力発電所(松江市)2号機の再稼働に必要な安全対策をまとめた審査書案を了承した。事実上の「合格判定」といえば聞こえは良いが、実は悲願の再稼働実現まではまだ道半ば。肝心の「地元同意」を取り付けるメドがさっぱり立っていないのだ。中国電の原発部門はかねてトラブルや不祥事が絶えず、審査過程でも規制委担当者が「責任感の欠如」や「ぬるま湯体質」を再三批判。地元では「こんな会社に原発を任せて大丈夫か」との声がしきりに漏れてくる。

後を絶たない「原発不祥事」

「『報告しなかった』という事例は昔から続いている。同じような反省の言葉を何度も聞いた」  規制委の合格判定から2日後の6月25日に広島市の中国電本店で開かれた株主総会。島根原発再稼働へ光が差し、明るい話題に満ちていると思いきや、予想とは正反対に空気は重たかった。  壇上の社長、清水希茂はじめ経営陣を厳しく追及する質問が飛び交っていた。株主の怒りの理由はこうだ。島根2号機の合格判定が出たのと同じ23日、規制委の定例会合で中国電が原子力規制庁から借りていたテロ対策関連の機密文書を誤ってシュレッダーで裁断し、廃棄していたことが報告された。問題はその誤廃棄が15年4月に行われたにもかかわらず、中国電が規制委にそれを伝えたのが6年以上経過した今年6月21日だったこと。 「文書の漏洩なら報告義務があるが、廃棄したので漏洩ではないと判断した」というのが中国電側の言い分だが、些細な異常や予兆を見逃さない注意力が求められる原子力分野では「あってはならないこと」(規制委関係者)。事象を過小評価し、しかも勝手な判断でミスを覆い隠した罪は重い。  株主が「同じような反省の言葉を何度も聞いた」と苛立つのは、島根原発を巡ってこの手の不祥事やトラブルが絶えないからだ。  15年6月に放射性廃棄物の処理で使用する機器の点検記録を2年近くにわたって担当者が偽装していたことが明らかになったのをはじめ、19年8月には放射線量などを測定した資料を保存期間中にもかかわらず誤って廃棄していたことが発覚。さらに、昨年2月には低レベル放射性廃棄物の保管などに使うサイトバンカ建物を巡視する法定業務を協力会社の社員が18年前から32回も怠っていたことが判明したほか、今年も機密文書誤廃棄問題が明らかになる直前の5月に、島根原発2号機の地下で作業員の転落事故と1号機の東側にある管理事務所でのボヤ騒ぎが連日発生した。  そもそも中国電は11年前に会社の汚名となる大スキャンダルに見舞われている。10年3月、島根原発1、2号機で合計511箇所の検査漏れが発覚。事態を重く見た経済産業省は同年6月に行政処分を下し、再発防止体制が確立するまで両機の起動を認めない方針に踏み切ったのだが、その過程で、社内調査に当たっていた男性部長が4月に飛び降り自殺するという悲劇が重なった。  当時の経営陣はこの不祥事を風化させないため、毎年6月3日を「原子力安全文化の日」に設定。原発の近隣に建設した島根原子力館で同社幹部が「誓いの鐘」を鳴らすセレモニーを実施してきた。だが、こうした取り組みが「単なるパフォーマンス」(地元関係者)と映る有り様なのだ。

「10年ぶりの運転」の恐怖

 苛立っているのは株主だけではない。島根2号機の審査に当たった規制委の担当者も〝暖簾に腕押し〟のような中国電側の対応に感情を露わにする場面があった。昨年9月、津波対策を審査する会合でのこと。津波で故障し漂流している漁船が防波堤に衝突した場合の対応を議論した際、中国電側は「漁船がぶつかることはない」と説明した。これを聞いた規制委の緊急事態対策監、山形浩史は怒りを隠さず「漁船がぶつかったら重大な影響がある、だから故障しないことにするという、そんな発想が問題だ」と痛烈に批判した。  11年3月の東京電力福島第1原発(フクイチ)事故後に定められた新規制基準に基づき、中国電が島根2号機の再稼働申請をしたのが13年12月。だが、同機はメルトダウン(炉心溶融)を起こしたフクイチの原子炉と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)だったことから規制委は審査を慎重に進め、まず関西電力や九州電力、四国電力が採用する加圧水型軽水炉(PWR)の審査を優先させた。  さらに規制委は、BWRについて東電柏崎刈羽原発(新潟県)6、7号機の審査を先行させ、それに続く島根原発2号機、日本原子力発電東海第2原発(茨城県)、東北電力女川原発(宮城県)2号機の作業を効率化させる手法を採用。その結果、後続のBWRの審査は大幅に遅れることになったが、それでも島根2号機と同じ13年12月に再稼働申請した女川2号機は昨年2月に、14年5月申請の東海第2は18年9月にそれぞれ審査が終了している。  柏崎刈羽6、7号機を含め、これら4つのBWRが4〜6年で審査を終えたのに対し、島根2号機は事実上の合格とはいえ、申請から7年半を過ぎてもまだ「審査中」だ。なぜ、島根2号機の審査が遅れているのか。その理由は、規制委が中国電の不祥事頻発の土壌や責任感に欠けた体質を不安視しているからに他ならない。  フクイチ事故から10カ月後の12年1月27日、島根2号機は定期点検で運転を停止。以後、再稼働せず、来年1月には停止期間は10年に達する。島根原発には他に1号機(15年4月に廃炉)、3号機(建設中)があり、合計107人の運転員がいるが、このうち41人は運転経験がない。残り66人は経験があるとはいえ、10年のブランクは大きい。「自動車のドライバーでさえ、10年ぶりの運転となれば不安でたまらない。失敗が許されない原発なら、そのプレッシャーの大きさは計り知れない」(大手電力の運転員OB)。  当然、地元の不信感は根強く、とりわけ30キロ圏内に米子市と境港市が含まれる鳥取県知事の平井伸治は再稼働などの際の「事前了解権」を執拗に要求。島根県内でも出雲市や雲南市の市長たちが中国電に繰り返し「事前了解権は必要」と主張し続けている。  こんな会社に原発を運転させてはいけないのである。(敬称略)

......続きは「ZAITEN」9月号で。

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