ZAITEN2021年12月号
財務諸表から見える“不可思議な決算”
東京機械製作所「乗っ取り騒ぎ」に強い違和感
カテゴリ:企業・経済
都並清史社長(写真は公式サイトより)
製造大手の東証1部上場、東京機械製作所が、香港の金融筋を背景とする東証2部上場のアジア開発キャピタルにより株を買い占められ、攻防戦が過熱している。
アジア開発は今年7月、保有割合が8%となった旨の大量保有報告書を提出し、同月末までに32%超まで一気に買い進めた。これを受け東京機械は8月上旬、既存株主に新株予約権を無償割当することでアジア開発の議決権希薄化を狙う買収防止策「ポイズンピル」導入を求める臨時株主総会を10月22日に開催することを決議した。臨総に向け、両社の対立は激化。東京機械は労働組合や下請け会社、そして顧客の新聞社を巻き込み、「買い占め反対キャンペーン」を展開しだした。 旗振り役は、言わずと知れた新聞業界の雄、読売新聞である。
読売新聞を筆頭に朝日、共同通信などの新聞社・通信社40社は9月10日、アジア開発による株式取得に「強い懸念」を表明する書簡を東京機械に寄せた。 〈私たち新聞各社は、貴社(東京機械)が「強い危機感」を持たざるを得ない状況が続き、貴社の日常の業務運営や貴社の先行きに支障が生じることに懸念を抱いております......輪転機の開発・製造体制が変えられてしまうなどすれば、新聞各社の印刷・生産体制は致命的な打撃を受けることになりかねません〉
読売は紙面でも東京機械を援護射撃する。9月25日の朝刊経済面で《東京機械 買収劇に注目》と題する6段抜きの記事を展開。アジア開発の株式取得を疑問視し、投資家保護の観点から買い占めルールに規制が必要と、東京機械側に寄った弁護士談話を掲載した。同社とアジア開発は買収防衛を巡り東京地裁で争っている最中で、露骨に東京機械側に追い風となる内容。同じ頃、マスコミ関係者の間で「警視庁公安部外事課がアジア開発のケツを洗っている」という〝怪情報〟まで駆け巡っていた。出所は推して知るべしだ。
赤字の元凶は新聞社との取引
しかし、この「乗っ取り騒ぎ」を冷静に見ると、新聞社による買い占め反対キャンペーンには違和感を禁じ得ない。
東京機械がアジア開発に買い占められたのは株価が割安だったからである。東京機械株はここ数年間、300円前後で推移し、その時価総額は20億~30億円程度。90億円弱の純資産を大きく割り込んでいた。時価総額が純資産を割るということは、理論上、会社を解散させれば差額分を儲けられるということだ。割安状態が続けば、アクティビスト(物言う株主)に狙われるのは常識である。
株価が安いのは、東京機械の事業を市場が全く評価していないからである。その原因は、他でもない「買い占め反対」の旗を振る新聞各社にあるのだ。 東京機械は長年、巨額の赤字を垂れ流す放蕩経営を続けてきた。2008~16年3月期まで8期連続の営業赤字。定期的に虎の子の不動産を売却、益出しすることで辛うじて3期連続の純損失を免れるような状態であった。その赤字決算の主因は、売上高が売上原価を下回る「原価割れ」。これは、例えれば1万円札を9000円で売っているようなものである。
......続きはZAITEN12月号で。