2021年12月号
月刊ゴルフ場批評50
「川越カントリークラブ」批評
カテゴリ:月刊ゴルフ場批評
〝ゴルフの神様〟中村寅吉(1915年~2008年)といえば、57年に霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)で行われた「ワールドカップ(当時は「カナダカップ」)で個人、団体とも優勝を果たし、第一次ゴルフブームの火つけ役となったレジェンド。 著書の一つ『中村寅吉「気」のゴルフ』(ベネッセコーポレーション刊)では、技術以上に普段の練習やラウンドなどゴルフへの接し方、いわばゴルファーとしての「気構え」を伝え、背筋をシャンとさせられる。
その寅さんは生涯で20以上のコースを設計・監修しているが、自ら在籍していたこともあり、なかなか熱が入ったといわれるのが「川越カントリークラブ」だ。 クラブハウスは一歩足を踏み入れただけで、そのスケール感に圧倒される堂々の佇まい。ハウス2階には「中村寅吉メモリアルコーナー」があり、往時を偲ぶ写真、使用クラブが展示されている。ファンには本当にありがたい。 この日は寅さん設計の中コーススタート。川越CCは27ホールだが、9ホールごとに設計者が異なる珍しいコースだ。
出だしは、はるかに打ち下ろしていくパー5。真緑にダイヤモンドカットされたフェアウエーがいきなり目に飛び込んできて、これぞ名門コースという美しさ。 あれ、グリーンはどこだ? フェアウエーの木立に遮られて狙い場所が分からない。この日はセルフプレーだから、カート装備のタブレットとにらめっこ。おお、2グリーンだが、途中からフェアウエーが二股に分かれ、それぞれ独立したルーティングになっている。高麗グリーンだと右だから、ティショットは左狙いか。
それにしても右サイドはバンカー、林、池という三重苦で、なかなか厳しいスタートホールだ。在籍時、メンバーのティショットを見守っていたという、寅さんの激励の声が空から聞こえてきそうだ。 二股に分かれたルーティングは中コースの半分以上のホールに及び、2グリーンながらグリーン周りがタイトに絞り込まれ、グリーンの大きさも横幅が20㍎ほどしかない。アプローチに自信のないゴルファーは苦戦必至だ。 フェアウエーは広く、ティショットでのプレッシャーは少ないが、狙いどころが限られているため、グリーンからの逆算が必要だ。寅さん流の頭脳プレーが求められる戦略的コースともいえる。 午後からプレーした西コースにも二股ルーティングがあり、激しいドッグレッグなど変化に富んでいて、何度プレーしても飽きのこない名コースだ。
しかし! 名門コースなのに、何でハウスやカートに注意書きがこんなに多いんだ。〈カードホルダーの返却〉とか、〈乾燥室の忘れ物注意〉、浴室では〈ビニール袋の指なめ禁止〉まで。ここまで徹底しないとコントロールできない会員や客層なのだろう。65歳のときに「65」という当時のエージシュート世界記録を達成した寅さんが見たら、きっと威勢のいいべらんめえ口調で声を張り上げ、苦言を呈すと思うぞ。
●所在地 埼玉県東松山市大字大谷4189 ●TEL. 0493-39-1261 ●開場 1963(昭和38)年9月15日 ●設計者 中村寅吉、発知朗、大竹敏郎 ●ヤーデージ 27ホール、9802ヤード(高麗グリーン、バックティ使用時)、パー108