ZAITEN2022年1月号
明石順平インタビュー コロナ禍の"新型ブラック労働" 「固定残業代」が諸悪の根源
カテゴリ:インタビュー
緊急事態宣言の発令後、国の外出自粛要請を受けて休業した会社が従業員に賃金を払わないケースがかなり増えたと主観的には感じます。実際、今日もそうした企業に勤める人から相談の電話がありました。
国は新型コロナの感染拡大の影響により事業活動縮小を余儀なくされた事業者に対し、従業員の雇用維持を目的とした雇用調整助成金制度を設けており、これを申請して認められた事業者は労働者に支払う休業手当に関して1人につき1日1万5000円を上限に助成を受けられます。
ところが、私や労働問題を専門とする弁護士たちの団体「ブラック企業被害対策弁護団」に相談してくる人の実体験を聞くと、賃金支払いを拒否する会社の中には、雇用調整助成金の申請さえしていない企業が多い。特にひどい例では、従業員側が「こういう制度があるのだから申請して欲しい」と会社に頼んだだけで経営者の怒りを買い、解雇されたということもありました。
また、コロナ禍による業績不振を理由に従業員を整理解雇する企業も増えましたが、整理解雇はもともと労働者側には一切の責任がなく、会社の一方的な都合で行われるものなので、現実にはきわめて厳格な要件をクリアした上でなければ裁判所は認めません。現在のような、雇用調整助成金の申請期限が繰り返し延長されている状況下で認められることはまずありません。
ただ、不当な解雇などは私たちのような法律家に相談してもらえればいくらでも適切なアドバイスができるのですが、実際にはどこにも相談することなく解雇を受け入れ、次の職場を探すことに必死になっている人のほうが多数派でしょう。水面下で行われている違法解雇や不当解雇が相当あるであろうことは意識しないといけないと思っています。
そうした、様々な理由から専門家に相談するのが難しい人のために、このほど『Q&A 誰でもできるブラック企業対策』(集英社インターナショナル)という本をブラック企業弁護団所属の弁護士たちと共同で執筆し、10月に刊行しました。ブラック企業で労働者が遭遇しがちなトラブルへの対処法について、2次利用フリーになっている佐藤秀峰さんの人気漫画『ブラックジャックによろしく』のキャラクターを使わせてもらいながら分かりやすく解説したものです。デザインも含めて、私が今まで出した本の中で一番気に入っています。
アルバイトを辞めさせない
特に強調したいのは、退職を申し出た従業員に対して、あの手この手で辞めさせまいとしてくる企業への対処法です。
もちろん法的には、労働者が自分の都合で一方的に辞めたからといって責められる謂われは何もありません。ところが辞めたいという従業員の意志を無視し、「退職するなら損害賠償請求をする」と脅しまでして辞めさせまいとするブラック企業は現実にとても多いのです。そして、そうした脅しを真に受けた従業員が過労死や過労自死に至ってしまう例は、認定されなかったものも含めれば相当数起きている可能性があります。
あるいは、死に至らないまでも、人生が悪いほうに変わってしまうこともあるでしょう。実際にあった例では長時間労働で学業との両立ができなくなったアルバイト大学生が退職を申し出たところ、バイト先から損害賠償請求をちらつかされて辞められず、せっかく入った大学を中退する羽目になったという人もいました。 特に今の時代は、学生たちは総じて困窮していてみんなアルバイトをしていますので、たまたま入ったバイト先が悪質だと命を落とすことにもなりかねません。 今回出した本の内容をごくかいつまんでまとめるなら、「会社が言っていることはほとんどがウソだと思え」ということ。そして労働者が自分の権利と命を守るためにやるべきことは、(労働時間や上司の発言を)記録することと誰かに相談すること。その2つです。
......続きはZAITEN1月号で。
◆プロフィール◆
あかし・じゅんぺい――1984年生まれ。東京都立大学法学部、法政大学法科大学院を卒業後、現職。主に労働事件、消費者被害事件を担当。ブラック企業被害対策弁護団所属。著書『アベノミクスによろしく』『データが語る日本財政の未来』(共に集英社インターナショナル新書)、『財政爆発 アベノミクスバブルの破局』(角川新書)など。