ZAITEN2022年1月号
“虎の子〟ユニオンバンク売却でデジタル投資の愚
三菱UFJ「米銀売却」で亀沢非難の背後
カテゴリ:企業・経済
亀沢宏規MUFG社長
"虎の子"の米商銀事業を手放して、またフィンテック投資に突っ込むのか――。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の元役員らの間で、社長の亀沢宏規(1986年旧三菱銀行)の評判がすこぶる悪い。傘下の米地銀「MUFGユニオンバンク」のリテール部門の米地銀最大手、USバンコープ(本社=ミネソタ州)への売却劇でそんな悪評は決定的となった。
東大大学院理学系研究科で修士課程を収めた亀沢は「メガバンク初の理系トップ」への気負いからか、「金融プラットフォーマーになる」とぶち上げ、フィンテック事業に入れ上げている。事実、MUFGは今回のディールで得た9000億円近い資金(バンコープ株式分を含む)をさらなるデジタル投資につぎ込む構え。しかし、これまでの投資は死屍累々の様相で、これが周囲のさらなる不安と不満を掻き立てているのだが、その背後にはいまだグループ内権力を掌握できない亀沢を批判の矢面に立たせる「印象操作」(幹部)もあるといい、MUFGの権力構造は千々に乱れているようだ。
疑われる"トップの調整力"
「旧三菱銀と旧東京銀の両行バンカーにとってはグローバルバンクの象徴で、かけがえのない存在だった」。元役員はユニオンバンクをこう評する。旧三菱銀と旧東銀が70~80年代にそれぞれ買収した米地銀を統合してできたユニオンバンクは、邦銀傘下で米州最大規模。かつ日本勢唯一の米リテールバンクとして金融界でもその名を知らしめてきた。グループ戦略への貢献も大きく、個人客から集めた潤沢なドル預金は長年、三菱UFJ銀行(MUBK)の海外事業に不可欠な外貨調達を支えてきた。 実際、平野信行(74年旧三菱銀)が会長を退任し特別顧問に退く2021年春まで、MUFGはユニオンバンクを、08年のリーマンショック時に90億ドルを出資して持分法適用会社とした投資銀行大手のモルガン・スタンレーと並ぶ米国戦略の柱と位置付けてきた。
ただし、近年はモルスタが、日系大企業が関わる国際大型M&A(合併・買収)関連のビジネスなどを相次いで獲得してMUFG全体の収益の約4割を稼ぐ一方、デジタル対応に出遅れたユニオンバンクは米西海岸に約300カ所ある実店舗が重荷となり、収益の先細りが鮮明になっていた。17年以降、ネットバンキングサービスを充実したり、軽量型店舗を導入したりしてテコ入れを図ってきたものの、超低金利の長期化も打撃となり奏功しなかった。
加えて、米当局による資金洗浄(マネーロンダリング)対策などの規制強化への対応も悩ましかった。実は、ユニオンバンクはリテール部門売却が決まった前日の9月20日にも、米通貨監督庁(OCC)から業務リスク管理や情報セキュリティー対策に不備があったとして、業務改善命令を食らっている。国際業務に必ずしも精通しない亀沢体制の下、米当局の規制圧力に抗し切れなくなり、撤退を余儀なくされたのが実情だ。
......続きはZAITEN1月号で。