ZAITEN2022年2月
実は企業におもねって“骨抜き”の指摘も…
【内部告発特集】改正「内部告発者保護法」の知られざる中身
カテゴリ:企業・経済
企業の内部告発者を守る改正公益通報者保護法が2022年6月に施行される。通報対象者の範囲が広がり保護内容も強化、企業内通報窓口だけでなく、行政や報道機関など〝外〟への内部告発もしやすくなる。企業側は通報受付担当者が刑事罰の対象となるほか、告発の〝犯人捜し〟などが禁止される。違反した企業に対しては、国が報告徴収や指導・勧告する。報告をしない、あるいは虚偽報告には行政罰が課され、勧告に従わない場合は企業名も公表される。
従業員300人超の全ての企業を対象に、内部告発の通報窓口など必要な体制整備が義務付けられる。すでに大企業の多くは外形上、体制を整えてはいるが、06年の現行法施行後も企業不祥事が後を絶たず、運用面で半ば形骸化している実態が指摘されていた。改正法施行により、従前のように告発者の〝犯人捜し〟を行うなど運用を誤れば、マスコミなどの外部へ告発される可能性が高まることから、企業側は一定の緊張を迫られることになる。
トナミ運輸に在職中、トラック業界の闇カルテル問題を内部告発し、公益通報者保護法制定のきっかけともなった串岡弘昭氏は、改正法についてこう評価する。 「04年の制定時には、内部告発者は密告者ではなく、守られるものだという法律が作られたこと自体が評価点でした。今回、企業の告発者捜しが禁止され、行政罰が付いたことは、国が内部告発者を守るという具体的な一歩を踏み出したと考えられます」
光学機器メーカーのオリンパスで内部通報の報復を受け、裁判闘争で勝利した浜田正晴氏も、法改正を歓迎する=32頁記事参照。 「評価すべき点は、企業担当者に刑事罰が付いたこと。一番の根っこである通報者の特定に繋がる情報漏洩に関して、通報対応業務従事者をきちんと定め、企業が通報体制を整えなければならないと定められたことは、一歩前進です」
改正法では、行政罰は20万円以下の過料、刑事罰は30万円以下の罰金とそれぞれ定めている。
罰則規定以外での、改正の主なポイントは2つ。1つは、保護される対象と保護内容の範囲が広がったことだ。現行法は労働者だけを保護対象としていたが、役員と退職者(退職後1年以内)が新たに加わった。役員は具体的に「取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人」(第2条)などと規定されている。
また、保護される通報事案には従来の刑事罰のほか、行政罰(過料)も追加。企業からの損害賠償請求を恐れて通報を躊躇しないよう、通報に伴う損害賠償責任の免除も盛り込まれた。
もう1つは、企業外への告発がしやすくなったことだ。現行法では行政通報の要件として、通報事実が信じるに足る理由がある場合に限られたが、改正法では真実相当性を求めず、名前や住所などを書面に書いて提出すれば通報を受け付ける。また、報道機関などへの外部通報についても、生命や身体だけでなく、通報事実を直接の原因とした個人の財産への損害の危険性までを要件に入れた。
さらに、企業側が正当な理由なく通報者が特定される情報を漏らす可能性が高い場合も、外部通報の要件に新たに加わった。
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