ZAITEN2022年2月
仏マクロンが原発回帰を囃し立てる中
日立「原発復権」にタマはなし
カテゴリ:企業・経済
マクロン仏大統領が2021年11月9日、テレビ演説でエネルギー価格高騰への対策として「原発建設の再開」を宣言。10月にも小型モジュール炉(SMR)の研究開発に10億ユーロ(約1280億円)を投じるなど、立て続けの原発回帰方針を発表した。しかし、日本を含め世界の産業界の盛り上がりはさっぱり。一連の原発回帰は22年春の仏大統領選への政治的思惑や既存の原発事業の行き詰まりが背景にあり、ビジネスベースでは旨味がないからだ。
前会長の生々しい記憶
12月3日、日立製作所が4割、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が6割をそれぞれ出資する原子力合弁会社GE日立ニュークリア・エナジー(米ノースカロライナ州)が、カナダのオンタリオ州営電力会社(OPG)から、出力30万㌔㍗級のBWR(沸騰水型原子炉)型SMR1基を受注したと発表した。
日本企業の原発受注といえば、12年に日立が現地企業を買収し事業参加を決めた英ウィルファ・ニューウィッド原発や、13年に三菱重工業が建設に合意したトルコのシノップ原発以来。ただ、これらはいずれも後に白紙撤回されており、実際に着工まで漕ぎ着けたプロジェクトになると、11年1月に着工した東京電力ホールディングス(HD)の東通原子力発電所(青森県)1号機以来、10年ぶりということになる。
これを受けたマスコミ各社の動きを見ると、典型的なステレオタイプ報道が目立った。
例えば、福島第1原発事故後も「原発推進」の論調を崩さない読売新聞は三菱重工や東芝など既存原発メーカーの次世代炉開発の動きを紹介しながら、「カナダがSMR建設を決めたことで、開発競争が加速しそうだ」と報じた。NHKは「脱炭素の機運が高まる中、海外では運転中に二酸化炭素を排出しないとして小型の原子炉の活用を目指す動きが出ていて、アメリカやポーランドなどでは導入に向けた検討も進んでいる」と読売に比べれば抑え気味だが、脱炭素化を背景にSMRの導入機運が高まっていると伝えている。
SMRは従来型に比べ、出力が3分の1程度の小型の原発。とはいえ、原発に変わりはないのだから、重電メーカーや電力会社、利権政治家らが集う「原子力ムラ」が盛り上がっているだろうという思い込みが一連の記事の行間から読み取れる。ところが、現実は全く異なることが、同8日に報道各社の取材に応じた日立社長、小島啓二のコメントで明らかになる。
カナダのSMR受注について問われた小島は素っ気ない回答をした。「将来はSMRが重要になる可能性があるのでテクノロジーとしてしっかり見ていく」(12月9日付『日刊工業新聞』)、「日立は建設には関わらない。顧客に要求されたら部品を供給するのにとどまる」(同日付『日本経済新聞』)
ベテランの業界アナリストは「『テクノロジーとして見ていく』というのはSMRを収益事業として捉えていないということ」と解説する。さらにある日立グループ関係者は「IoT(モノのインターネット)などへ事業シフトを進めている社内では"原発回帰"などと騒がれたくないという雰囲気が強い」と話す。
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