ZAITEN2022年03月号
日本大学「再生会議」問題メンバーに現場の不信
カテゴリ:事件・社会
加藤直人・日大理事長兼学長
(日大ホームページより)
「補助金のカットは避けられません。さらに最悪の事態は、文部科学省が行政指導に動き、国の管理下に置かれることです」
こう心配するのは、学校法人日本大学の教職員たちだ。日大では前理事の井ノ口忠男被告が、医学部付属病院の建て替えをめぐる背任罪など2つの事件で起訴。前理事長の田中英寿被告は業者などからのリベート5200万円を隠し脱税した所得税法違反の罪で、昨年12月に起訴された。
日大では田中被告を理事から解任し、12月10日にはガバナンス体制のあり方を見直す「日大再生会議」の設置を、13日には調査チームの中間報告を公表した。
ところが、文科省はこうした日大の対応に対して「背景や全体像が明らかにされておらず、具体的な再発防止策も何ら示されていない」と強い不満を示し、12月17日に3度目の指導文書を加藤直人理事長兼学長に直接通知した。指導を受け日大側は田中被告らに損害賠償を請求すること、事件の舞台となった日大事業部の清算を視野に入れること、第三者委員会の設置などを1月11日に回答。役員報酬の一部返納も決めた。
文科省が日大に対しどのような処分を下すのか。その影響を受けるのは日大傘下の学校で学ぶ児童から学生までの約11万7000人と、約7000人の教職員だ。文科省の指導に対して回答する際、大学は学生や教職員にも意見を求めた。教員有志161人をはじめ、教職員組合や学生などが大学再生に向けた意見を寄せた。理事長の独裁、縁故採用、スポーツ偏重の運営を改めることや、当たり前だが、教育・研究機関であることを明確にして、大学に自治を取り戻すことなどを求めている。
一方で、文科省の強硬な姿勢に戸惑う関係者は多い。そもそも理事長による独裁を可能にしたのは、国の政策だ。04年の私立学校法改正で初めて理事会の設置が法律に明記され、事実上の最高意思決定機関になった。さらに14年の学校教育法改正では、教授会を学長の諮問機関に格下げ。現場の教員の声を一切聞かずに大学を運営する理事会が現れた。田中被告は08年に理事長に就任すると、12年には総長制を廃止して自らの権限を大幅に強化。独裁はかねて問題視され、18年のアメリカンフットボール部の危険タックル事件でも表面化したが、田中体制を放置してきた文科省にも責任はある。
仮に文科省から理事が送り込まれることになれば、国に管理される可能性もある。それでは自治の回復とは違った方向に進むことが懸念される。文科省がどのように判断するのか、関係者は「固唾を呑んで見守っている」状況だ。
文科省の動きとは別に、教職員が首を傾げているのが、1月18日に初会合が開かれた再生会議の人選である。ガバナンス体制を3月末に答申する予定だが、委員の1人に筑波大学学長選考会議の議長を務めた河田悌一がいる。河田が主導した学長の任期撤廃や不透明な選考過程が学内から批判を浴びた。私立大学への補助金などを交付する日本私立学校振興・共済事業団の理事長を長く務めるなど、文科省とも近い人物だ。再生会議の人選がどのように行われたのかは不明で、「なぜ他の大学で問題になっているような人物を選ぶのか」との声も聞こえる。
いずれにしても、大学の再生に向けて実際に働くのは現場の教職員。文科省と再生会議の動向が「全く読めない」と、現時点では困惑するしかない。(敬称略)
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