ZAITEN2022年06月号
日本の大学研究を阻害する予算削減の愚
【インタビュー】北海道大学前総長が語る「私が文科省に反発する理由」
カテゴリ:インタビュー
北海道大学前総長 名和豊春
私は大学の教員が企業からお金をもらって研究すること自体は、決して悪いことではないと思っています。国の予算はどうしても大都市圏の大学に集まりますので、私が前総長を務めた北海道大学ではそこまで大きな予算を獲得することができていませんでした。私自身もそうでしたが、苦労しながら教員が企業や海外から研究費を取り付けてくるのは、自分で研究の道を切り拓くことにつながると思っています。それはそれでいいのではないでしょうか。
しかし、逆に言えば国から大きな予算を得ることで、おかしくなってしまうことがあります。巨額の金を動かすリーダーになってしまうと、ある意味、研究者ではなく〝政治家〟になってしまいます。それに忙しくなりすぎて、本来の研究に取り組む時間がなくなってしまうことも多々あります。
私が教授の頃、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の5億円の予算を獲得したことがありました。研究期間は3年間でした。さらに、他の公募にも通って、同じ時期に合わせて7億円ほどの研究予算を責任者として動かしたことがあります。そうなると、企業や関係者との交渉だけでもかなりの時間を取られて、自分でも何をやっているのか分からなくなるほど忙しいことがありました。
それに、国の予算は使いづらい面があります。海外から研究者を呼ぶと高額な渡航費がかかりますし、国際会議を開けば会食代もかかります。ところが、国の予算ではそうした費用を賄えないことが多く、各教員が自腹で負担せざるを得ません。国から大きな予算を獲得したからといって、いいことばかりではないのも事実です。
研究にとって一番大事なことは、ひとつのことをじっくり考えて、突き詰めていくことです。何が問題なのかをきちんと解析して、分析する。それができなければ、研究になりません。時間をかけて考えて、問題点を見つけなければならないのに、莫大な予算をどんどん使って、こなしていくだけになってしまうと、研究自体が進まなくなってしまいます。
......続きはZAITEN6月号で。