2022年06月号
【対談】佐高信の賛否両論
佐高信vs.寺島実郎「プーチンを増長させた安倍晋三」
カテゴリ:インタビュー
寺島実郎氏(右)と佐高信氏(本誌撮影)
てらしま・じつろう――1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員、三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、多摩大学学長、(一社)寺島文庫代表理事。国土交通省・国土審議会計画部会委員、経済産業省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員等を務める。著書に『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』『脳力のレッスンI~V』『日本再生の基軸』『シルバー・デモクラシー』(岩波書店)、『中東・エネルギー・地政学』(東洋経済新報社)、『世界を知る力』(PHP新書)他。
寺島 ロシアの侵攻でまず考えたいのは、今、自分たちがいかなる情報環境に置かれているかということです。私はMXテレビで『世界を知る力』という番組を持っていますが、ウクライナ危機について語った3月20日の放送回はYouTube上で65万回以上再生され、うち4割は日本国外からの視聴でした(3月31日現在)。
世界中の人々が情報に飢えている一方で、国際情報戦によるフェイクと、本質的構造を見抜けない表面的な報道が飛び交っています。それを前提に佐高さんと議論したいと思います。
佐高 確かに、日本国内のメディアも奇妙なことになっています。例えば先日、『週刊ポスト』から「プーチンに騙された10人の日本人という企画でコメントが欲しい」と電話があったんですが、森喜朗や安倍晋三の名前を挙げているのに、なぜか鈴木宗男と佐藤優はリストにない。「これは忖度なのか?」と尋ねたら、ポストは「彼らは確信犯なので入れていません」と言うんです。確信犯とは一体どういう意味でしょうかね。協力しかねるので断りました。
まあ、それはともかくとして、ロシアの侵攻以降、ニュースで流れるのは軍事の話ばかりです。しかし、重要なのはやはり経済へのダメージでしょう。日本の経済制裁がロシアへどのような形で影響を与えるのか。マスメディアはその肝要をほとんど知らせません。
寺島 軍事というのは〝戦局情報〟であって、いわば戦中の大本営発表に近いものです。核兵器や軍事といったハードパワーの面においては、なるほどロシアという国は世界に冠たる国かもしれませんが、経済というソフトパワーにおいては小国もいいところです。
ところが私に言わせれば、プーチンは経済というものの怖さを知らない。2021年にロシアが世界GDPに占める比重はわずかに1・6%。今年は間違いなく1を割ってきます。ルーブルは対ドルで一時8割も暴落。SWIFT(国際銀行間通信協会)から外され、最恵国待遇を失い、さらに国債の格付けも「投機的水準」まで落とされました。プーチンは一見強面ですが、経済の面では「トゥシューズを履いた巨人」と言われるほど、足元はグラグラです。
佐高 なるほど。野村証券で顧問を務めた元大蔵官僚の鈴木秀雄さんと話をしていて、「米国というのは為替を分かっていない国」と言われたことがあります。つまり、自国が基軸通貨のドルであるが故に為替の本質を理解できないが、プーチンはグローバル経済の理を軽視する意味で「為替が分かっていない」。軍事力の前では経済制裁など取るに足らず、と甘く見ていたのでしょう。
寺島 日本国内には「経済制裁の効果は限定的だから、ハードでロシアに向き合わなければいけない」という考え方がありますが、実際には経済制裁はとんでもないほど効いています。今の日本人に、自国通貨の価値が8割も下落することの意味が分かるでしょうか。想像を絶する悲しみです。
......続きはZAITEN6月号で。