ZAITEN2022年07月号
振り返れば奴がいる―
【特集】「アクティビストファンド」勝手番付
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瀕死の東芝がのたうち回っている。アクティビストに食い付かれてもがき苦しむ様は、さながら全身をヒルに覆われ、生き血を吸われる巨象のようである。
5月13日午前、「至急」と題する1通のメールが報道各社に届いた。同日午後に2022年3月期決算と同時に発表する予定だった取締役候補者の公表を急遽見送るとの内容だった。
現在、暫定的に取締役会議長を務めている前社長の綱川智は退任が決まっており、6月の定時株主総会に向けて焦点のひとつが、後継の議長人事だった。「外部招聘するのが既定路線で、すでに人事案も固まっていた。しかし、株主となっているアクティビストからの了承が得られなかった」。取引銀行幹部は東芝の内部事情をこう明かす。昨年6月の定時株主総会では、取会議長の永山治(中外製薬名誉会長)が、アクティビスト主導で敢え無く再任を阻まれる結果となった。今回も下手をすれば、総会で取会議長人事が否決される恐れがある。このため、アクティビストに事前のお伺いを立てなければならなかったのである。
そもそも永山は欧州系投資ファンド、CVCキャピタルへの身売り話を独断で画策していた当時の社長、車谷暢昭のクビを切る荒業に打って出た人物。にもかかわらず、一昨年の定時株主総会で、アクティビストに追い詰められた車谷と経済産業省の不透明な馴れ合い関係を放置していたとして、詰腹を切らされた。車谷退任で、会長から社長に返り咲いていたのが綱川。その上、永山も追い出されて、議長の重荷も背負うという異常事態に東芝は陥っている。
綱川は昨年11月、非上場化を回避する策として東芝を3分割する案を打ち出した。エネルギーなどの「インフラサービス」会社、電子部品などの「デバイス」会社、それに関連会社株式を管理する東芝本体の3社に分け、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」を廃するという計画だ。
しかし今年2月、デバイス部門だけを切り離す2分割に変更する迷走の末、3月の臨時株主総会で、あくまでも非上場化を迫るアクティビストの同意を得られず、またもや頓挫。今度は綱川まで退任に追い込まれた。もはや東芝は、高値売り抜けを狙うアクティビストの求めるがまま、非上場化に突き進むしかないのが現状である。
東芝を襲うファンドの素性
東芝の生き血を吸い続けるアクティビストを改めておさらいしておこう。筆頭株主は、発行済株式の10%弱を持つシンガポールの「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」。第2位が同拠点で約8%を握る「3Dインベストメント・パートナーズ」だ。大量保有報告書で明らかになる5%以上の保有比率には届いていないものの、その他に香港の「オアシス・マネジメント」や米系の「ファラロン・キャピタル・マネジメント」、同「エリオット・マネジメント」などが名を連ねる。
エフィッシモは運用資産残高が約1兆円で、日本に投資する最大のアクティビストファンドだ。創業者は旧村上ファンドでファンドマネージャーをしていた高坂卓志と今井陽一郎。同ファンドの解散後、シンガポールに渡り、06年に立ち上げた。今井の父は通産官僚で、村上はその後輩だった。運用会社に務めていたが、内向的な今井を修行のために村上に預けた、と村上を知る人物は明かす。
......続きはZAITEN7月号で。