無線機「アイコム」の株式取得

「光通信」総会前に〝沈黙の撤退〟

カテゴリ:企業・経済

 ゴールデンウィーク突入直前の4月27日、人知れず半年間に及ぶアクティビストとのバトルをひっそりと終えていた上場会社がある。その会社は大阪市に本社を置く無線機メーカー、アイコムだ。  

 携帯用無線機メーカーの草分けで、アマチュア無線マニアの間では知らない人はいない隠れた有名企業。年商300億円に満たない規模ながら、同社の製品は自衛隊や世界各国の政府機関、米軍にも採用されるなど、知る人ぞ知るグローバル企業でもある。1990年の上場以来31年間、営業赤字は94年3月期と96年3月期の2度、最終赤字は94年3月期の1度だけで、無配に転じたことは1度もない。無借金で自己資本比率は実に91・1%。年商に匹敵する現預金を持つなど、財務も盤石だ。

 この会社に挑んだアクティビストは光通信。正確に言えば、上場している㈱光通信の子会社で投資業務を営む「光通信㈱」と、そのまた子会社の「㈱UH Partners3」というファンドである(光通信グループ)。2社合計で18・73%を保有していた昨年10月、アイコムに対し、発行済み株式総数の3分の1未満まで買い増す意向であることを表明した。  

 これを受けてアイコム側は、2度にわたって光通信グループに情報提供を求め、得られた回答をもとに独立委員会に評価・検討を依頼。その結果を記した勧告書を会社側が受領したのは今年3月10日である。勧告内容は当然というべきか、「企業価値ないし株主の共同利益を著しく損なうものと評価できる」というものだった。

 周知の通り、議決権割合の3分の1以上を保有している株主は重要事項への拒否権を発動できる。ただし今回、光通信グループが買い増しの意向を表明したのは3分の1未満なので、形式的には単独で重要事項への拒否権を発動できるわけではない。とはいえ、総会での議決権行使割合が100%に達することはまずない。故に3分の1弱でも実質的に拒否権の発動が可能な保有割合ということになる。それが企業価値や株主の共同利益を損なうというわけだ。  

 結果を受け、アイコム側が6月下旬開催の定時総会で、買収防衛策の発動の可否を問う議案上程を表明。すると、光通信グループはあっさり買い増しの意向表明を撤回。アイコム側も総会での議案上程の意向を取り下げ、半年間に及ぶ〝バトル〟は幕を下ろした―。


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