ZAITEN2022年09月号
【対談】佐高信の賛否両論
佐高信×落合恵子 「安倍氏死去」で思った〝知性〟の在り方
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おちあい・けいこ―1945年、栃木県生まれ。作家。子どもの本の専門店「クレヨンハウス」と女性の本の専門店「ミズ・クレヨンハウス」、オーガニックレストラン等を東京と大阪で主宰。「月刊クーヨン」、オーガニックマガジン「いいね」発行人。主な著書に、『決定版 母に歌う子守唄―介護、そして見送ったあとに』(朝日文庫)、『泣きかたをわすれていた』(河出書房新社)、『明るい覚悟―こんな時代に』(朝日新聞出版)、『偶然の家族』(東京新聞)など多数。『あの湖のあの家におきたこと』『悲しみのゴリラ』(クレヨンハウス)など、数々の絵本の翻訳も手掛ける。新刊に、1945年生まれの4人の女性が主人公の『わたしたち』(河出書房新社)。
佐高 我々が話をしているのは参議院選挙投開票日の直前ですが、この対談記事が公開される頃には選挙結果を経て、自民党内でも政局が始まっていることでしょう。7月8日、安倍晋三が奈良での応援演説中に銃撃されて死亡しました。私は家にいて、事件の一報をテレビで知りましたが、落合さんはどうでしたか。
落合 小田急線の車中、ヤフーニュースで知りました。沿線の幼稚園の保護者の方々への話を終えて、表参道のクレヨンハウスに戻る途中でした。しばらく茫然としていました。けれど、極めて曖昧なイメージですが、この上なく不安で不穏なことが社会で起きるのではないかという、ある種の落ち着かなさ、不安定さが、いつの頃からか、私の中にあったような気がします。それがいつ始まったものなのかは定かではありませんが......。ウクライナへのプーチン政権の侵攻が始まってからはなおさらのことだったのですが......。
佐高 どちらかと言えば、安倍さんは言論を封殺する側の政治家でしたから、その人が撃たれたというのは私にとっては意外な感じでしたね。 ただ、すぐに元自衛隊員が犯人だということが分かって、私は常々、「自衛隊(軍隊)は国民を守らない」と言っているので、防衛費の増大を唱える彼が凶弾に倒れたというのは皮肉だなとも思いました。
彼の叔父さんの西村正雄さん(故人、旧日本興業銀行=現みずほ銀行=頭取)は首相の靖国参拝に反対で、私にも手紙をくれるような人でしたから、甥の安倍晋三が首相になることには積極的に賛成ではありませんでした。それに晋三の父親の晋太郎は「自分は岸信介の娘婿ではない。(リベラルな)安倍寛の息子だ」と言っていたんですがね。
落合 人が殺されていいはずはありませんが、人の死を利用することもまたあってはならないことだと考えます。8日の夜は、翌々日に迫った参院選の結果を想像しながら夕刊各紙を読み比べ、テレビ番組もずっと観ていました。 「民主主義への暴挙」「民主主義へのテロ」といったニュアンスのフレーズが多かった印象です。「民主主義への......」が枕詞のように多用されていました。その側面を否定はしませんが、次のようなコラムを書きました。政治家は当然公人であり、公人は最期を迎えた時、功はもとより罪もまた、過不足なく問われるべきでしょう。何をしたか、何をしなかったか、その間の過程のひとつひとつも。問うのは一般市民であり、私たちにはその権利と責任があります。それを飛び越えて、神格化するのは公人に極めて失礼なことではないか、と。等身大で評価すべきです。
佐高 最初、メディアは「特定の宗教集団」とか言って、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と報じなかった。統一教会と特定すれば、嫌でも自民党との深い関係に触れざるを得なくなりますからね。しかし、「反共」を旗印にした旧統一教会との関わりを追及しなかったら、問題の根源には迫れないでしょう。創価学会や幸福の科学と政治の関係も、この際、ハッキリさせなければならないと私は思いますけどね。
落合 ジョージ・オーウェルでしたか? 英国の作家でありジャーナリストだった人ですが、彼はジャーナリズムについて次のように述べています。私の記憶なので、一字一句正しいわけではありませんが......。
......続きはZAITEN9月号で。