ZAITEN2022年011月号

ヒマラヤ、如来、ヨガの聖者……

【特集】〝宇宙の意志と同調〟怪しすぎる稲盛哲学

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「来年、六十五歳になるのを機に閑職に退き、仏門に入りたい」
1996年10月、稲盛和夫は、京セラ、DDI(現・KDDI)の会長を辞し、出家することをこう宣言した。当時の稲盛は、すでに京セラを世界的企業に育て上げ、DDIを興すなど、戦後を代表する経営者であり、経営第一線からの引退は驚きをもって受け止められていた。  日本を代表する経営者が仏門に入った例は、日本の歴史上、稲盛以外には1人しかいない。その人物とは、中村天風である。

 天風は、1919年(大正8年)に、東京実業貯蔵銀行頭取をはじめ、実業界での活動を突然停止し、「宇宙の様相が明確に見えた」として、いっさいの社会的地位を捨て、大説法をはじめたのだった。天風から直接教えを受けた人は、10万人を超えた。政界、財界、法曹界、官界などの多くの人が入門し、天風の薫陶を受けた。天風の教えに感動した東郷平八郎元帥は、このような詩で絶賛している。 「神国哲人出 扶桑雲海開 英雄興児女 都入法門来」※神国(日本)に哲学者が現れて、日本に垂れ込めた雲海を開くと、英雄から女子に至るまでの人が教えを乞おうと入門した。

 稲盛が宗教への道に開眼したのは、少年時代に結核を患ったときだった。「生長の家」の信者だった隣の家の奥さんから借りた天風の本を熟読したのがきっかけだ。その宗教的価値観は経営者となって発揮され、1984年にDDIを設立した時には「動機善なりや、私心なかりしか」と3カ月間にわたって己に問い続けたのだという。当時の新聞には、〈(稲盛の)自宅に積まれた蔵書は、哲学者の中村天風氏など宗教・哲学関係が七割を占める〉(日経新聞・1996年10月7日 )と報じられている。

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