ZAITEN2023年10月号
「単純化」という病
郷原信郎「安倍政治が遺した〝単純化〟という病」
カテゴリ:インタビュー
ごうはら・のぶお―1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部検事、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年弁護士登録。著書に『〝歪んだ法〟に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)『「深層」カルロス・ゴーンとの対話』(小学館)など多数。
―執筆動機を教えてください。
第二次安倍政権の時代に「モリ・カケ・サクラ」などさまざまな問題が立て続けに表面化し、その都度、私は何が問題の本質であるのかメディアを通して論じてきました。その後、安倍氏が銃撃によって亡くなり、改めて安倍晋三という政治家がもたらしたものは何だったのか、これまで論じてきたことを振り返り、整理し、見えてきたことをまとめたいと考えました。本書では、岸田政権の問題や、安倍氏が亡くなったあとに出版された『安倍晋三回顧録』の内容も含めて論じています。 ―組織コンプライアンスの観点から、安倍政治をどのように見ていますか。
本書を書く中で痛感したのは、第二次安倍政権で日本の社会、組織が相当壊れてしまったということです。本当の意味のコンプライアンスが失われた社会になってしまった。その原因は一つではありませんが、やはり国の最高権力者のあり方が大きく影響しているように思います。
権力者側とそれにはべる人たちは、法令遵守と多数決で押し通せば、すべて問題はないこととして済まされると考えている。この考え方が国の中枢で蔓延しました。それは、組織が社会の要請に応えるという本来の意味のコンプライアンスではありません。この数年、まともにコンプライアンスについて議論する機会さえ少なくなってしまいました。
たとえば、加計学園問題。この問題の本質は、国家戦略特区制度という枠組みそのものの歪みです。獣医学部新設を認めない「岩盤規制」は何が何でも打ち壊していくべきだという極めて単純な考え方をする規制緩和至上主義の人たちが力を持って議論をリードし、その結果、特定の業者が規制緩和の対象になれば独占的な利益を得ることができるという枠組みに問題があります。
......続きはZAITEN10月号で。