ZAITEN2023年11月号
【新連載】井川意高の時事コラム「どの口が言う‼」 第1回
【全文公開】井川意高の時事コラム『どの口が言う‼』1 「ジャニーズ広告と企業」
カテゴリ:事件・社会
これほどおぞましい光景を目にすることは、なかなかないと思う。「ジャニーズ事務所性加害事件」である。ジャニーズ事務所、被害者グループ、マスコミ、この三つ巴だけでも十分醜かったのに、スポンサー企業まで参戦、監督官庁への忖度問題まで垣間見えてきた。さながら百鬼夜行である。
被害者が少年だからか社会の糾弾もなんだか緩い気がするが、小中学生のアイドル志望の少女を、何百人と事務所の社長が夜な夜な合宿所で襲っていたと置き換えてみたら、世界にも例をみないとんでもない大規模性犯罪である。事務所の名称云々どころではない。企業としてこの世に存続し続けることが許されるべきではない。
マスコミの罪は、今更私が論ずるまでもないだろう。視聴率を取れるタレントを供給してくれるという一点で目を瞑っていたマスコミが今更したり顔で批判追及など〝何をか言わんや〟である。
被害者もいただけない。もちろん被害者はあくまでも被害者である。救済被害弁償を受ける権利があり、本人たちが望むなら世間の同情も得ることも良かろう。しかし、40年前の高校生でも知っているような事実を、被害者たちを事務所に託した彼らの保護者が知らなかったとは、私には到底思えない。全員でなくとも、かなりの数の親は知っていた上で、一攫千金の夢をみてジャニーズ事務所に我が子を入所させたのではないか。そして、「性加害問題当事者の会」。基金を作ってジャニーズ事務所の売上げの3パーセントだかを毎年拠出しろという。当事者の会の支援に入っている弁護士や団体関係者の人脈を調べると面白いことになるかも知れない。「企業にはただちに事務所との取引きを停止することを臨んでない」のは、金の卵を生む鶏を殺して欲しくないからか。半永久的な装置で吸い上げ続けようという姿勢には違和感しかない。
スポンサー企業もスポンサー企業である。当事者の会の思惑要請とは裏腹に雪崩をうってジャニーズタレントとの契約を打切りに走っている。逆張りを狙って契約継続を発表したが、あまりの批判にわずか2日で撤回したモスバーガーなどはご愛嬌か。スポンサー企業もマスコミと同罪である。どんなに取り繕おうと、ジャニー氏の性犯罪を少なくとも広告制作現場の担当者や、広告宣伝責任者である役員が知らなかったはずがない。実際、私が責任者であった大王製紙では、私自身が40年前から知っていたのだ。大王製紙に限らずこれまでのスポンサー企業は「知らなかった」と嘘の説明をするのではなく「知っていたが起用し続けていたのは認識が甘かった。今後は反省して、性犯罪の疑われる芸能事務所とは一切契約しない」と過ちを認めるべきである。
最後になんとも気持ち悪いのが、櫻井翔の『news zero』キャスター起用継続と、日本ラグビー協会アンバサダー起用継続である。櫻井の父親は、地上波テレビ監督官庁である総務省の元次官であることは知られている。スポンサー企業がこれだけ契約打切りに動き、ジャニーズタレントを起用する番組への広告出稿まで控えようかとしているにもかかわらず、櫻井を起用し続けるのは、父親の古巣である監督官庁への忖度だろうか。スポンサーが付かなくなると大赤字の番組になるのではないか。その父親は、電通の代表取締役副社長を務め、日本ラグビー協会は電通と強い関係があると言われている。まあ、そういうことだ。全方位に批判したが、かくいう私自身が大王製紙時代、ジャニー氏の行状を耳にしながら、松本潤といった「嵐」メンバーをCMタレントに起用していたのだから、同罪である。
井川意高(いかわ・もとたか)――大王製紙元会長。1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、87年に大王製紙に入社。2007年に大王製紙代表取締役社長に就任、11年6月~9月に同会長を務める。著書に『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(幻冬舎文庫)など。