ZAITEN2023年11月号
裁判所の「復職」和解案をみずほが拒否
【全文公開】みずほ「自宅待機5年裁判」が証人尋問へ
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5年に及ぶ自宅待機の末、みずほ銀行を2021年5月に懲戒解雇された元行員の男性の悲痛な叫びについて、本誌は21年5月号からたびたび伝えてきた。男性は繰り返し内部通報をしたものの、懲戒解雇されたため、21年9月にみずほ銀に対して訴訟を起こしていた。この裁判が、これから佳境を迎えようとしている。
まずは経緯を簡潔に振り返ってみたい。男性はみずほ銀の人事部から執拗な退職強要を受けた上、16年4月から自宅待機を命じられた。男性は体調を崩し、精神的に追い詰められて、通院を余儀なくされる。不可解だったのは、自宅待機命令や退職強要を受けるに相当する正当な理由が、みずほ側から男性に明かされなかったことだ。きっかけとして男性が思い至るのは、当時のみずほコーポレート銀行京都営業部長で、前みずほ銀常務執行役員(現在はみずほリース常務執行役員)の須見則夫に、客の前で足を組んで新聞を広げる態度を改めるようお願いするメールを送った直後に「覚えておけよ」と言われたことだった。
自宅待機命令から1000日経過直前の18年12月以降、男性は内部通報に踏み切る。しかし、みずほ銀は内部で定められているコンプライアンス統括グループによる対応をせず、退職強要などのハラスメントを実行した人事部が接触を試みてきた。男性は繰り返しコンプライアンス統括グループによるパワハラ防止法に沿った適切な対応を求めたが、最終的にはみずほ側が懲戒処分を乱発し、21年5月に男性を懲戒解雇した。
これに対し男性は、「残された道は提訴しかない」と決意。同年9月にみずほ銀を相手取り、解雇無効の確認や、慰謝料1500万円を含む約3300万円の損害賠償と未払い賃金の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。以後、これまで2年間にわたって審理が続いている。
裁判所の「復職」和解案を
みずほ銀が3度拒否
東京地裁はこの約1年間、男性の「復職」を前提とした和解を提案してきた。最初は昨年8月に「復職」を検討するよう打診したが、みずほ側は取締役会で正式に拒否した。2回目の提案は同年9月。「復職の再検討」に加えて、「再発防止策、コンプライアンス統括部対応問題、誠意ある被告からの謝罪」を検討するよう打診するものだった。この和解案に対して、みずほ銀は10月、次のように回答した。
・秘密保持契約前提の上で2000万円の解決金を支払う
・自宅待機が長期化したことに「遺憾の意」を表明する
・「再発防止の意思」を表明する
・公益通報者保護関連法を厳守する
2000万円の解決金を支払うというみずほ側の提案は、自ら否を認めている証拠と言える。しかし、「復職」提案は受け入れていない。秘密保持契約を結ぶことを前提としているのは、和解内容を口外禁止として、できるだけ報道されないようにしたかったのだろうか。みずほ側の回答が受け入れられるはずもなく、2回目の和解協議もまとまらなかった。
その後、裁判所は3回目の和解提案をした。その内容は「復職を再検討し、原告の名誉回復のため、懲戒解雇を撤回して社員として再発防止策や正式な謝罪を行う。ただし、会社都合による早期退職扱いにする」というものだった。このように、裁判所が3度にわたって復職の検討を前提とした和解案を示したことについて、男性の代理人を務める中川勝之弁護士は「原告側が求める復職を和解案として裁判所が打診したのは、通常の解雇事件に比べると異例といえる対応だった」と振り返る。
しかし、みずほ側は頑なに「復職」を拒否。男性側も「復職」以外は受け入れらないとして、和解協議は決裂してしまった。
男性側は経営陣の
証人尋問を求める
裁判は今後、みずほ銀関係者への証人尋問が行われる。11月15日には、直接退職強要などを行った当時の人事部参事役で、現在はシンガポール拠点管理部に所属する小野正詔の証人尋問が決まった。男性側はさらにみずほ側から7人の証人を求めている。7人は自宅待機命令と退職強要を認識しながら放置してきた当時の経営陣だ。
まず、前みずほフィナンシャルグループ(FG)会長で特別顧問の佐藤康博。男性はタブレット端末を活用した営業のプロとして活躍を認められ、「みずほアウォード賞」を計4回も受賞し、当時FG社長だった佐藤から2度も優秀賞特別表彰として直接激励を受けた。2回目には肩を組んで記念撮影までしている。業績を残してきた社員に対する退職強要や自宅待機命令をどう考えていたのか、当時のトップとして佐藤の証人尋問はぜひとも聞きたいところだ。
また、前FG社長で相次いだシステム障害の責任をとって辞任した坂井辰史、当時人事グループ長としてこの問題に関わった前FG代表執行役の石井哲、FGとみずほ銀の現人事グループ長の上ノ山信宏の証人尋問も求めている。
それだけではない。男性はみずほ銀の経営管理会社であるFGの社外取締役にもパワハラを通報して助けを求めたが、問題は解決しなかった。当時社外取締役だった元経済財政政策担当大臣の大田弘子と、東京高検検事長と最高裁判事を務めた甲斐中辰夫の2人、それに現在も社外取締役を務める小林いずみの証人も男性側は申請している。中川弁護士は、7人の証人を求めている理由を次のように説明した。
「内部通報に対して経営陣がどう対応してきたのかが見えてきません。しかも最後は懲戒処分を乱発しています。実態解明のためにはトップと、トップに準じる人たちの説明が必要だと考えています」
この裁判では、不祥事を繰り返すみずほのコンプライアンスも問われている。男性は闘い続けている理由を陳述書にこう綴った。
〈一部の経営幹部による悪質な組織によるいじめによって、7年以上も「働く権利」を奪われてしましました。(中略)「みずほ」に未だに残る「企業風土」は決してなくなることはないでしょう。私と同じ事件が起きないためにも本裁判を機に「パワハラ防止法とは何か、労働者の権利とは何か」を一人の労働者としても最後まで訴え続けていく義務があると強く感じています〉
それにしても7年は長い。みずほ側は7人の証人尋問に応じ、このような異常事態をなぜ放置したのか説明すべきである。(敬称略)