ZAITEN2023年11月号

東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃

【全文公開:著者インタビュー】『東京電力の変節』

カテゴリ:インタビュー

東京電力の変節 最高裁_書影.jpg東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃
旬報社/1,500円+税

ごとう・ひでのり―ジャーナリスト。1964年生まれ。NHK「消えた窯元10年の軌跡」、「分断の果てに〝原発事故避難者〟は問いかける」(貧困ジャーナリズム賞)などを制作。『世界』(岩波書店)で「東京電力11年の変節」を連載。


―本書は東京電力と原発事故の賠償をめぐって、大きく2つの問題提起をしています。
 1つは、原発事故後の賠償をめぐる裁判での東電側の姿勢の変化です。  

全国各地で事故避難者による訴訟がはじまり、東電側が負け続けるなかで、賠償金の増額を拒否するために、原告(事故避難者)を個人攻撃する主張に変貌していきました。  

 実際に裁判に行くと、東電側の弁護士はじつに硬軟織り交ぜて尋問をします。上から目線で非常に高圧的な言葉遣いで原告本人を威圧する弁護士。あるいは原告自身も忘れてしまっているような非常に細かい賠償の支払いをネチネチと指摘する弁護士もいます。後者は、裁判官に対してのアピールです。これは「弁済の抗弁」といって、東電は「様々な名目で多すぎるほどの賠償金をすでに支払っている」と主張しているわけです。  

 東電が原告への過剰な個人攻撃や弁済の抗弁を持ち出すようになった背景には、賠償金がどこまで膨らむのかという危機意識があると推測できます。  

 賠償金の支払いの構造を簡単に説明すると、まず東電には賠償金の原資が不足しています。そこで、経済産業省の下に原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠支援機構)を設立し、原賠支援機構を介して国債で賠償金を捻出します。要するに国に対する東電の借金です。東電は経営努力で返済しなければならず、賠償金が青天井で膨らめば、経営的な重荷を背負うことになる。それを防ぐ目的で、賠償をめぐる裁判での姿勢を変えたのではないかと思います。

―もう1つは「司法の独立」をめぐる衝撃的な事実です。
 司法の独立をめぐっては、古くから議論されてきました。本書で指摘するのは、それとは別の資本主義が加速していくことで顕在化した問題です。  

 東電をめぐる裁判やその背景をひもといていくと見えてくるものは、最高裁、国、企業をつなぐ5大法律事務所と呼ばれるビジネスロイヤーの存在です。  

 たとえば、最高裁判事退官後、5大法律事務所のひとつ西村あさひ法律事務所の顧問に就任した千葉勝美弁護士が挙げられます。去年6月、国と東電を被告とした原発事故避難者訴訟で、最高裁は「国に責任はない」と判決を下しました。千葉氏はこの判決を下した菅野博之裁判長を最高裁事務総局時代に指導する立場にありました。さらに千葉氏は上告時には、東電側の意見書を最高裁に提出しています。最高裁判事経験者が、個別の事案について意見を出すことはタブーとされてきましたが、千葉氏はこの禁忌を破ったということです。  

 西村あさひ法律事務所と東電の繋がりはほかにもあります。共同経営者のひとりである新川麻弁護士は2021年までに経済産業省のエネルギー政策に関連する8つの審議会の委員や専門委員を務め、21年からは、東京電力の社外取締役を務めています。  

 避難者訴訟における被告のひとつである国のエネルギー関連審議委員会の委員を務め、もうひとつの被告である東電の社外取締役という経営に深くかかわる立場にある。さらに新川氏の夫・浩嗣氏は財務官僚でもあります。  

 ほかにも、同じく5大法律事務所のひとつTMI総合法律事務所は津島原発訴訟控訴審における東電の主たる代理人弁護士の多くが在籍しています。そのなかには、東電を監視する立場の原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁での在籍経験がある弁護士すらいます。つまり、かつての監視対象が現在のクライアントという状況であり、弁護士職務基本規程において矛盾するような状況です。本人を取材すると「東電代理人への就任は、原子力規制庁と東電の両者から承諾を得ているから問題はない」という趣旨の回答でしたが、弁護士を介した両者の結び付きの深さを裏付けるものではないかと邪推してしまいます。  

 このように、裁判所、行政、企業を巨大な法律事務所が媒介して癒着を深めている。これが現在の司法の独立に対する新たな問題だと考えます。

―現代の司法には悪意のない利己主義を感じます。
 その通りです。賠償をめぐる裁判において原告に必要以上に個人攻撃を行う東電も、ビジネスロイヤーとして企業と行政や裁判所を結び付ける法律家も、そこに悪意がない点、ある種、自分たちの正当性をなんら不審に思っていない点が私はとても恐ろしく感じます。彼らは資本主義という秩序のなかで、法律というルールに即して、自分たちの利益を追求していますが、それは法律家というよりもビジネスマンです。  

 このビジネスロイヤーと企業の関係性はあらゆる業界に広がっているでしょう。両者の関係性を月刊誌『経済』(新日本出版社)に初めて公表した後、関心を示してくださった報道機関はZAITENさんとしんぶん赤旗だけです。大手メディアについては推して知るべし、といったところでしょう。 『東京電力の変節』のタイトルにある「変節」とは、賠償をめぐる東電の裁判戦略の変化、そしてその背後にある企業と司法の癒着という「司法の独立」の変節に触れるものなのです。


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