ZAITEN2023年12月号
【新連載】井川意高の時事コラム「どの口が言う‼」 第2回
井川意高の時事コラム『どの口が言う‼』2「詐欺師が刷ってヤクザが売る新聞」
カテゴリ:事件・社会
編集部からもらった今月のお題は「新聞社」。なるほど、私が過去に所属した会社は、新聞社が大のつく得意先で私は裏も表も知り尽くしている。
もはや会社を離れて気兼ねのない私は、X(旧Twitter)上でも、朝日・毎日を始めとする新聞の偏向ぶりを批判しているが、今回は紙面の内容ではなく、「部数」に焦点をあててみたい。
日本の新聞の部数は、1997年の5300万部をピークに減少の一途をたどり、昨年は3000万部余りと往時のほぼ半減という惨状だ。まあ、いつでもネットでリアルタイムに情報に接することの出来るこのご時世に、昨日の昼間起こったことを翌朝知るのに月5000円近く払う酔狂な人間が減るのもむべなるかな。むしろ、まだ3000万人もいることに驚きだ。
さて、そんな落ち目の三度笠な新聞だが、何十年にもわたり詐欺行為を働き続けてきたことは、知っている者は知っている事実だ。「押し紙」である。「積み紙」ともいう。
かつては新聞社の公表部数の3割が、実際には読者のいない押し紙であった。
公称1000万部の読売新聞であれば、実部数は700万部、公称800万部の朝日新聞であれば、その実600万部を切っていると言われていた。
確かに新聞社の輪転機で印刷はするのだが、その分は各地の販売店に実販売部数以上に押し付けたのである。そしてそれは、梱包するビニール袋を破ることもなく、古紙回収業者に引き取られ、そのまま製紙会社のパルパー(古紙を溶かす設備)に放り込まれていたのだ。
これのどこが詐欺行為なのか。新聞社が損しているだけではないか。余分に新聞用紙を買ってもらえる製紙会社はウハウハだし。いやいや考えてみて欲しい。新聞に広告を出すクライアントは、公称部数を基に費用効果を計算するのだ。朝日は全国800万の購読者がいるのだから全5段広告に500万円払おうとか、一面広告にいくら使ってもいいと思うわけだ。
もちろん法律で定められた定価などがあるわけではないので、広告価格は交渉事だが、クライアントが800万人の目に触れると思って金を出しているのに550万人にしか届かないなら立派な詐欺だろう。
かつて私の親しかった北陸放送の嵯峨春平社長は、自分の放送局が広告の「トバシ」といってクライアントに約束していたGRP(視聴率×放映回数)を流していなかったことが露見して辞任した。ならば、全国の新聞社の社長は皆辞任すべきだろう。
先ほど「販売店に押し付けた」と書いたが、実は販売店も共犯者なのだ。
販売店にとっては毎月の購読料に加えて、新聞に折り込む広告チラシ料は大きな収入源。地域のスーパーの特売情報とか商店街の洋品店の広告といったものは、小さなエリア単位になるので販売店に折込チラシを頼むわけだが、これらの広告主だって、この販売店が我が街で何部配ってるという話を信じて、部数分のチラシ料を払っているのだ。
ある意味、新聞社本社よりも販売店の方が悪質である。本紙に広告を載せるようなナショナルクライアントは押し紙のからくりを薄々知っているので最初から計算に入れている。しかし地方の商店街の主人がそんなことを知っているだろうか?「うちは3000部配ってますよ」と言われて「本当は2000部だよね」と思うだろうか。
かつて新聞は、「インテリが書いてヤクザが売る」と言われた。実態は、「詐欺師が書いてヤクザが売っている」のである。
井川意高(いかわ・もとたか)――大王製紙元会長。1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、87年に大王製紙に入社。2007年に大王製紙代表取締役社長に就任、11年6月~9月に同会長を務める。著書に『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(幻冬舎文庫)など。