ZAITEN2024年02月号
月刊ゴルフ場批評76
「大洗ゴルフ倶楽部」批評
カテゴリ:月刊ゴルフ場批評
2024年一発目は茨城県、いや関東でも随一のシーサイドコース「大洗ゴルフ倶楽部」だ。
多くのゴルファーが叩きのめされ、肩を落として去っていく、超がつくほどのマゾコース。その恐るべき難易度を形成しているのは、松に覆われた樹林帯だ。クロマツが主体で、その数は約2万5000本ともいわれている。
もともと大洗GC建設の発端は、地域振興と戦後荒廃していた自然環境の保全。防砂林の役目を果たしているクロマツは、環境維持のためにも最優先課題なのだ。
その松が、全国的に猛威を振るってきた「松くい虫」の影響で危機にあるという。同GCでも年間150本近い松が被害に遭っていて、年に数日クローズし、年間5500本の樹幹注入や200本の植樹など対応に苦慮している。
そんな松林は進入路から姿を見せる。天高く聳える松林に見惚れながら進むと、松林の合間に車が申し訳なさそうに停車。駐車場も松林と混然となっている。
平屋造りのクラブハウスも、松を背にした純和風の雰囲気が漂う。
コース設計は井上誠一。戦禍を受けた日本にあって昔の姿をとどめているクロマツ群の景観に深く感動し、心血を注いで造り上げたというから、難コースが生まれたのも当然か。
フェアウエー自体は狭いわけではない。ティからボールを打ち出していく空間は充分すぎるほどだが、セカンド地点に行ってみると、クロマツの枝が攻略ルートに覆いかぶさるように迫っているためパニックに陥る。
加えて、井上氏ならではの心憎い樹々の配置と、深く大きく口を開けた「砂の谷」ともいえるバンカー群が待ち構える。鹿島灘から吹きつける強風は、不用意に打たれたハイボールを容赦なく林へと葬り去っていくのだ。
感覚的にはフェアウエーでプレーしていても、ジグザクに続くクロマツのトンネルをほふく前進させられているかのよう。
松林に関しては、ところどころ以前より疎らになったと感じる箇所もあるが、海風によってうねるように捻じ曲げられた独特の樹々は健在。ちょっと曲げただけで後ろ向きの「チョン出し」を迫られるラウンドに、メンタルを削られていく
松枯れとともに23年の酷暑がかなりのダメージを与えたようだ。訪れた時点では18ホール中、2ホールが目砂に覆われていて修復途中。ただ、他のホールでは、気になるほど荒れているグリーンがなかったのが救いか。以前にも述べたが、昨今のゴルフ場維持は大問題になるはずだ。
難コースに打ちひしがれた心を癒やしてくれるのは、ときおり見られる真っ青な海の美しさと、茨城弁丸出しの気さくなキャディ。港町という土地柄のせいか、マスター室前での支度のときから、大きな声で会話を交わしている。ラウンド中もオレのヒョロヒョロ球を大げさに褒めてくれて、救われる思いだ。
名門らしからぬ雰囲気。この辺は評価が分かれるところだが、個人的には嫌いじゃないぞ。
●所在地 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8231-1 ●TEL. 029-266-1234 ●開場1953(昭和28)年10月25日 ●設計者 井上誠一 ●ヤーデージ 18ホール、7205ヤード、パー72