ZAITEN2024年02月号
『情報公開が社会を変える―調査報道記者の公文書道』日野行介
【著者インタビュー】『情報公開が社会を変える』
カテゴリ:インタビュー
情報公開が社会を変える
―調査報道記者の公文書道
ちくま新書/¥880+税
ひの・こうすけ―1975年生まれ。元毎日新聞記者。東京電力福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の真相を調査報道で暴いた。著書に『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)、『調査報道記者―国策の闇を暴く仕事』(明石書店)、『原発再稼働―葬られた過酷事故の教訓』(集英社新書)など。
―本書執筆の動機を教えてください。
これまで原発行政を長年取材してきましたが、私自身は反原発という立場からやっているわけではありません。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、政策を評価するためには、意思決定過程まで精査し、事実を突き止めなければいけないというスタンスでやってきました。
取材テーマが原発というのもあると思うのですが、広く隠蔽された意思決定過程を暴いていくと、こんな政策はとても認められないという結論になるので、結果的には反原発と評価されます。そのため、反原発の運動をしている方々から声をかけられることも多いのですが、モヤモヤとして心通わないままのことが少なくありません。 その消化不良の原因を考えた時、彼らが「反原発」という結論だけを求めている、自分たちを正しいと言ってほしいことに気付きました。一方で、私が調べ上げた意思決定過程の事実、結論を出す根拠となった事実への関心は乏しいように感じてきました。
そうした結論ありきの姿勢では役所の思うつぼです。役所がでっち上げた偽りの議論の土俵に乗せられ、いつの間にか原発政策の推進に加担していたなんてことになりかねません。
私自身が調べて得られた事実を伝えるだけでは不十分だと感じていました。これを解決するには、彼ら自身が事実を探求するほかなく、情報公開の実践法を本にまとめようと考えました
―「結論ありき」ではどのような点が役所の思うつぼになるのでしょうか?
例えば、原子力規制委員会の最大の役割は原発の安全審査、いわば運転の可否を判断する試験官です。ところが、「反原発」を訴える人々は「ちゃんと規制しろ」と言って、運転の阻止を求めます。
しかし、これは規制委を後押し、むしろ原発推進に加担することになりかねません。このような事態を避けるには、役所の担当者や政治家が普段口にしない政策の「真意」をつかむ必要があります。その手がかりになるのは、役所が明らかにしない意思決定過程の情報です。これを引き出す正攻法は情報公開請求しかありません。 問題が起きた時、正面から対処するのではなく、いかに国民の目から不可視化して騙すかというところが政策の目的になっています。
情報公開制度を使い倒すことで隠蔽された事実を可視化することができます。制度を使い倒すことが役所の思うつぼにならない唯一の道です。
......続きはZAITEN2月号で。