ZAITEN2023年05月号
【連載】井川意高の時事コラム「どの口が言う‼」 第7回
井川意高の時事コラム『どの口が言う‼』7「老兵はただ消え去るのみ」
カテゴリ:事件・社会
編集部から届いた今月のお題は「老害批判」。書きましょう。老害について。老害は、少子高齢化が行き着くところまでいった日本では、どうしようもないくらい根の深い問題であるし、もはや完治は不可能だろう。80歳を超えて、棺桶に片足どころか両足の膝上まで突っ込んでいる老人が、政界でも経済界でものさばり続けている。
企業なら老害社長が経営を誤っても、その会社の株主と従業員が害を被って終わりだが、政治家だと国民が堪らない。XもTikTokもわからずYou TubeもInstagramも見たことがない前時代の遺物が、5年後この世にいるかどうかも知れないくせに、日本の将来を左右する立場に居座っているのだ。
これについての解決策はただ一つ。1票の重さを平等にすること。かつて最高裁の判断で1票の格差2倍以内を合憲としたが、どう考えてもおかしい。正しいのは1票の格差を無くすることだ。1票の重さに2倍の格差があることによって、地方の有権者は都市部の有権者の2倍の投票権を持ってしまっている。そして、地方在住者は今回の能登半島地震での報道でもわかるように老人ばかりだ。つまり、日本ではただでさえ比率の高い老人が若者や勤労世代(都市部に多い)の倍の投票権を持っているのだ。だから80歳近い、あるいは80歳を超える老害政治家が地方に多いわけである。岩手とか和歌山とか福岡とかにいるでしょ。都市部なら間違いなく落選である。
さて経営者はどうか。日本の経済団体は、サラリーマン経営者のデイケアセンター(年寄りの時間潰し施設)といっていいだろう。社長を退いても三種の神器(部屋・秘書・車)の居心地良さを手放したくない老人達が、勲章欲しさに経団連などに居座り、日本にとっては害悪でしかない政策を政府に提言し続けているのだ。創業社長にも、80歳を過ぎても自分がいなければ会社が立ち行かないと思い込んでいる人間がいる。部下や取引先がお追従で「まだまだお若いですね」などと言うものだから、本人も勘違いしてしまうのだ。
20年ほど前、同世代の経営者と飲んだとき「マジックナンバー65」というのが話題に上った。私と同じような二世経営者たちが、自分の親や他社の経営者をみていて、65歳を過ぎた頃から経営者としての判断や行動が微妙におかしくなってきて、世の中の動きや風潮とも感覚がズレてくるというものだ。
経営者としての経験と知識のピークが過ぎて、生理的にも老化が進み、成功体験も20年、つまり二昔も前のものとなり感覚が時代についていけなくなるのだ。厄介なことに、彼らが言っていること自体は正しい「事実」なのだ。つまり成功体験は否定出来ない事実だということ。ただし「過去」の「事実」である。
経営にとって最も大切なことは「未来」を予測して(100%当たらなくとも)対策・戦略を組み立て実行することである。「過去」は「過去」でしかなく、参考事例でしかない。今自らが置かれている時代環境さえも肌感覚で捉えられなくなっている老人に、未来を予測して正しい経営判断を下すことが出来るはずがない。 彼らも若い頃は、将来老害と思われる前に辞めようと考えていたかもしれない。ところが、いざ自らがその歳になると脳の老化現象で、そう考えていたことを忘れてしまったり、居座ることを自己正当化してしまうのだ。
私からいうべきことはただ一つ。「老兵はただ消え去るのみ」
と書いている私は今年還暦である。大丈夫。65歳までには、まだあと5年もある。
井川意高(いかわ・もとたか)――大王製紙元会長。1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、87年に大王製紙に入社。2007年に大王製紙代表取締役社長に就任、11年6月~9月に同会長を務める。著書に『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(幻冬舎文庫)など。
......続きはZAITEN5月号で。