ZAITEN2024年08月号
『実録ルポ 介護の裏』甚野博則
【著者インタビュー】実録ルポ 介護の裏
カテゴリ:インタビュー
『実録ルポ 介護の裏』
文春新書/950円+税
じんの・ひろのり 1973年生まれ。ノンフィクションライター。大学卒業後、大手電機メーカー、出版社等を経て、2006年から『週刊文春』記者、のちにフリーランス。「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。
―介護をめぐる構造的な問題としてどういった点がありますか?
かつての高齢者の介護といえば、〝長男の嫁〟がするべきといった社会通念がありました。また70代の子どもが90代の親を、80代の夫が80代の認知症の妻を介護するといった「老老介護」が社会問題になっています。要するに介護=家族・家庭の問題という認識が社会に横たわっています。
しかし、取材のなかで多くの介護事業者や介護関係者から、可能な範囲で介護はプロに任せるべきとの声を多く耳にしました。つらいこと、大変なことはもう全部プロに委ねたほうが良いと言う関係者の声は非常に多いのです。現場の関係者の多くはそういう認識になっているということです。
一方で、介護保険制度も含めて、国の施策の根底にあるのは「介護は家族・家庭の問題」という認識です。「ある程度、施設等を利用して元気になったら自宅に帰りましょう」という発想であり、それは単に家族に負担を押し付けることに過ぎません。現実の介護の問題と行政としての施策との間の構造的な問題といえます。
さらに地域、世代によっても認識の格差が生じています。都市部では利用できるサービスも豊富で選択肢が多いですが、地方ではそもそも享受できるサービスが限定されることも少なくありません。また、高齢化、過疎化が進む地方では、介護者も要介護者も含めて、地域社会そのものが家族・自宅での介護に対するこだわりが強いように感じます。
個々が負担している介護保険料は全員同じはずで、本来必要なサービスが受けられるはずが、住んでいる地域によって阻害されてしまっている点も構造的な問題といえるでしょう。
―取材のなかで驚いた点は?
法令遵守を徹底して社会福祉という高い倫理観をもった事業者もいますが、問題のある事業者が多いことに驚嘆しました。
......続きはZAITEN8月号で。