ZAITEN2024年09月号

【対談】佐高信の賛否両論

佐高信 vs. 雨宮処凛「自民政治の無策が貧困問題の元凶だ」

カテゴリ:インタビュー

あまみや・かりん 1975年、北海道生まれ。作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、07に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(ちくま文庫)はJCJ賞を受賞。

佐高:
2008年の年末の「年越し派遣村」は当時の貧困問題を象徴していますね。

雨宮:ちょうど同じ年の6月に、秋葉原で無差別殺傷事件がありました。派遣社員で25歳の加藤智大が起こした事件です。9月にリーマンショックがあり、それが発端となり派遣切りが相次いで起こり、年末に派遣村が作られました。日本社会が急激に崩れていきました。

佐高:貧困問題は終わったみたいな雰囲気が今の世の中に蔓延していますが、全然そんなことないですよね。

雨宮:悪化の一途を辿っています。08年の非正規雇用者は約1600万人でしたが、今は約2100万人です。あの時のブームが終わり、日本社会が慣れてしまったために若い人がホームレス化したり、ネットカフェ生活でも仕方がないのではと日本社会が麻痺しています。  

 民主党への政権交代の原動力のひとつに「格差や貧困への憤り」というのがあったと思います。しかし、政権交代後、東日本大震災が起こり、民主党政権は対応に追われ、12年末に第2次安倍晋三政権が誕生しました。自民党政権に戻ったことにより、政府の貧困層への対応が様変わりしました。  

 第2次政権で安倍さんが最初にしたのが生活保護費の引き下げで、その旗振り役を世耕弘成氏が担いました。生活保護費は13年から段階的に引き下げられ、11年間そのままです。  

 一方で、物価高騰が続き、実質賃金も連続低下という生活するには過酷な状況が続いています。

佐高:今話に出た安倍晋三と世耕は2人とも裕福な家に生まれています。貧困というのを身近に経験していないから貧困の実態が分からないのですよね。

雨宮:彼らの生まれ育った階層に貧困で苦しむ人はいなかったと思いますし、見たことがないから勝手に「怠けている」とイメージを持っているのではないでしょうか。分からないだけでなく、言葉が通じない別の人種と見ている感じがします。  

 格差社会は同じ国で一緒に暮らし、同じ日本語を話すにもかかわらず、日本語が通じなくなるということでもあります。  

 20〜30年前の日本には、貧困問題が分かる政治家が自民党内に今よりもいたし、彼らの身近に貧困層がいたという時代だと思います。貧困問題が理解できる政治家が減った結果、「貧困層は何をしてもいい存在」になってしまった。だから、生活保護費の1割カットを平気でやってしまう。

佐高:元大蔵官僚で首相にもなった大平正芳は苦学した人でした。大平は米価の引き下げ問題の時、自民党の世襲の若手議員から「大平さんはエリートだから庶民の生活の大変さは理解できない」との趣旨のことで追及された。それに対して大平は「私は田んぼの水を見回りしてから大学に通った。あなた方やあなた方の親とは違う」と怒った。近くで聞いていた田中角栄元首相は「大平正芳の初めて聞く〝ずしん〟と響く言葉だった」言いました。

弱者は見捨てる政治

佐高:派遣村はその後もずっと携わっているのですか。

雨宮:はい。特にコロナが始まって急激に失業者が増えたので、20年と21年は派遣村の有志たちで「年越し支援コロナ被害相談村」という相談会を年末年始に開催し、私も参加しました。  

 新宿の歌舞伎町のハイジアという建物にネットカフェ生活者支援の東京都の部署が入っています。そこが年末年始に、家がない人にホテルの部屋を提供しました。それを受けて相談会に住まいがない人が来たらそこに案内し、また、生活保護申請に同行したりもしました。  

 派遣村があった08年頃は、女性は505人中5人だけだったのですが、20、21年の時は、約400人中2割が女性。女性の数が大幅に増えたのがコロナ禍の特徴です。

佐高:貧困問題の解決に財源をかけるよりは、防衛費や稼げる成長分野に回した方がいいというのが安倍や世耕の考え方ですね。

雨宮:財源がないことを理由に社会保障費がどんどん削られるというのがこの数十年の流れです。
 そんな中、16年には最悪の事件も起こりました。「少子高齢化で日本は借金だらけ」という情報を真に受けた植松聖が相模原の障害者施設で入所者を殺傷した。「日本は借金だらけだから、障害者やお金がかかる人を生かしておく余裕がない」と言いながらあの事件を起こした。
 一方で、国は軍事費には湯水のように使うという矛盾がある。困窮者や高齢者、稼げない人たちがお荷物だというような誤った認識がどんどん広まっている気がします。第2次安倍政権が進めた生活保護費引き下げは国が「弱者は見捨てます」というメッセージを出したに等しいです。

......続きはZAITEN9月号で。

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