ZAITEN2024年10月号
【対談】佐高信の賛否両論
佐高信 vs. 本間 龍「日本に蔓延る電通という〝毒饅頭〟」
カテゴリ:インタビュー
ほんま・りゅう_1962年生まれ。89年、博報堂に入社。2006年に退社するまで営業を担当。著書に『原発広告と地方紙』(亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(岩波新書)、『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)など。
佐高:パリオリンピックの閉幕が記憶に新しいですが、その前の東京オリンピックは世界に顔向けできない「恥ずかしいオリンピック」でした。スポンサー交渉などは電通一社で担っていたのですか。
本間:マーケティング局というスポンサーとの交渉を担う部門や全体の進行管理などは電通一社です。NHKの調べによると、東京オリンピック組織委員会のマーケティング局の約300人のうち電通の出向者が100人以上入っていて、部課長以上は、ほとんど電通の人間という状況でした。
また、オリンピックの組織委員会の大半は東京都からの出向ですが、それは各部門からの寄せ集めみたいなもので、マーケティングの知識も全くない素人集団です。大ざっぱに言えば、昨日まで公園課とか水道局で仕事をしていた人たちがいきなり配属されるわけですから、電通に〝おんぶに抱っこ〟になってしまう。
佐高:金のにおいも嗅いだことがない〝素人〟と、金まみれの〝プロ〟が集まってオリンピックを仕切っていたのですね。
本間:全くその通りです。素人では太刀打ちできないので、電通はお金を抜き放題です。
佐高:その頂点にいたのが元電通の高橋治之ですか。
本間:高橋さんは電通を辞めてしばらく経っていましたが、ワールドカップ招致にも関わっていて、業界では不動の地位を築いていました。電通を離れた後もそのパイプは健在で、強力な発言力もあった。おまけに組織委員会の理事という肩書もありました。業界では高橋さんのことを知らない人はいませんでしたから、スポンサー企業のトップたちも高橋さんの話に耳を傾けたのだと思います。
佐高:高橋を理事にしたのは森喜朗元首相ですよね。
本間:森さんと安倍晋三元首相からも口利きがあったと言われています。自分でバックマージンを要求することは高橋さんにとって生業のようなものでしたので、それは当たり前の認識だったと思います。
佐高:高橋の問題は言わずもがなですが、森の罪は重いです。
本間:森さんが無罪で済むのは、どう見てもおかしい。森さんはスポンサー企業、例えばAOKIの会長と高橋と一緒に食事もしているわけですから。
佐高:KADOKAWAやAOKIはスポンサーとしてはメジャーではないですよね。
本間:あまりメジャーではないので、名を上げるためになんとか入りたかったのだと思います。
紳士服業界の中ではAOKIの存在感は大きいですが、アパレル全体の中で言えば、必ずしもそうとは言えない。KADOKAWAも集英社や講談社に比べれば、規模的には少し小さいです。
われわれから見ると、東京オリンピックのスポンサーになることがはたして名誉なのかと思いますが、1964年の東京オリンピックの記憶が色濃くある方にしてみたら、華やかな舞台のスポンサードができれば、名を馳せることができると考えたのでしょう。
佐高:講談社は引いたそうですね。引くように進言したのが、『週刊現代』の元編集長の鈴木章一と言われていますが、社内に「それはちょっと違うだろう」と言える雰囲気はあったわけですよね。
本間:講談社も同じ会に引っ張り出されたそうですが、高橋に迂回してお金を払わなければならないという話を聞いて、危険を感じ、身を引いています。そこは講談社のほうが会社としてのガバナンスがきちんと働いたと言えます。
「無理はなさらないように」
佐高:2015年、新入社員だった高橋まつりさんが自殺した事件もありましたが、過労死の問題はいかがでしょうか。
本間:電通には過労死をさせる文化がありましたが、今は残業を「させてはいけない」という意識的な改革だけではなくて、AIを導入するなどしてかなり労働時間を圧縮しているそうです。
......続きはZAITEN10月号で。