現在発売中のZAITEN3月号より
作家・浅田次郎インタビュー「"もの言えぬ時代"にペンクラブの果たす役割」を"ちょい見せ"します!
作家・吉岡忍との共著『ペンの力』(集英社新書)についてのインタビューです。
「もの言えぬ時代」の今 ペンクラブが果たすべき役割
特定秘密保護法、共謀罪、憲法改正......言論の自由に関わる大きな問題が相次ぐ今、6年間会長を務めた作家・浅田次郎がペンクラブの使命を語る。
言論・表現の自由の為の組織
2011年から2017年までの6年間、日本ペンクラブの会長を経験し、今年の1月に集英社から『ペンの力』という新書を出しました。昨年、新会長に就任したノンフィクション作家の吉岡忍さんとの対談本です。日本ペンクラブの設立から約80年間の歩みを振り返るとともに、「もの言えぬ時代」と言われる今、私たち作家には何ができるのかを真剣に語り合った一冊です。
これまでペンクラブは、世の中の人々に十分に理解されていなかったように思います。名前から判断して、単に小説家の集まるサロンのように見られてきたのではないでしょうか。歴代会長に川端康成さん、井上ひさしさんなど著名な作家が就任してきた経緯もあり、作家の親睦団体のように思われがちですが、これはまったくの誤解です。『ペンの力』の刊行には、そうした誤解を払拭し、ペンクラブをより良く知ってもらおうという意図もありました。
『ペンの力』の中で詳しく書かれていますが、日本ペンクラブは1935年、英国ロンドンに本部がある国際ペン(International P・E・N)の日本支部(当初の名前は「日本ペン倶楽部」)として誕生しました。初代会長は島崎藤村。言論・表現の自由を守るという、ただその一点のために設立された団体です。ですから、小説家の団体ではなくて、いわば言論団体としてスタートしたのです。それが今の日本ではあまり理解されていないんじゃないかな。
私自身、作家の井上ひさしさんと阿刀田高さんに誘われて入会しましたが、そうした趣旨を理解せずに入ったというのが正直なところです。人気作家のサロンに入れるんだと思って、「光栄です」なんて返事した記憶があります。自分の理解が間違っていることに気付いたのは、入ってからでした(笑)。国際ペンは、第一次世界大戦が終わった時、「戦争は言論・表現の自由が失われたときに始まるのだ、言論・表現の自由を守らなければならない」という反省から始まっています。今では世界中から約120の団体が参加していますが、中でも日本ペンクラブは最大規模を誇ります。
もともとそういう団体ですから、世の中の動きに対しては敏感に反応するわけです。例えば、これまでに原発問題や安全保障問題などに関する声明を出しています。そうした動きについて、純粋な小説のファンの方々は違和感を覚えるかもしれません。中には「興醒め」と感じる方もいらっしゃるかもしれない。
かつては私自身もそう感じたことがあります。中学生の頃、ペンクラブがベトナム戦争に反対する声明を出し、当時会長だった川端康成さんたちが記者会見を行う姿を見て、がっかりしたのを覚えています。川端さんのような超然たる小説家が俗事にまみれているような気がしたのです。現在では、それは私の誤解だったことがわかりましたが、今でも当時の私と同じく誤解を抱いてしまう方は少なくないのではないでしょうか。私の読者にも「興醒め」と感じてしまう方がいるかもしれません。本書を通じて、ペンクラブという団体を理解していただきたいと思っています。
重要な問題が続いた6年間
私が会長を務めた6年間は、東日本大震災直後で、第2次安倍政権ともちょうど時期的に重なり、特定秘密保護法、安保関連法、いわゆる共謀罪の成立など、言論・表現の自由に関係する極めて重要な動きがありました。省みて、「なんでこんな大変な時に会長になったんだろう」という感はあります。特に特定秘密保護法は、ペンクラブの設立趣旨とダイレクトに繋がる問題なので、組織のトップとしても大変な局面でした。
《続きは本誌にて掲載しております。》
〈企画・構成=編集部〉
あさだ・じろう―1951年生まれ。作家。著書に『鉄道員』(直木賞)、『壬生義士伝』(柴田錬三郎賞)、『お腹召しませ』(中央公論文芸賞&司馬遼太郎賞)、『帰郷』(大佛次郎賞)など。日本ペンクラブ第16代会長(2011年〜2017年)。
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