10月31日、若手行員による顧客情報漏洩の事実を発表した香川のトップバンク、百十四銀行。この"事件"を詳報した小誌「ZAITEN」2019年12月号の発売(11月1日)を次の日に控えた突然の"自白"劇だった。
行員による情報漏洩は法人3件、個人14件の合計17件に及んだ上、そのうちの1件では、すでにカネを騙し取られる被害が発生していたという驚くべき内容。しかし、やはりというべきか、記者会見は百十四銀の企業体質を反映したものだった。
これほどの不祥事案にもかかわらず、会見に臨んだのは、代表取締役たる綾田裕次郎頭取ではなく、香川亮平専務執行役員。しかも、情報漏洩による被害が発生していたのは今年7月で、百十四銀側がどの時点で漏洩と被害発生を確認したかは不明ながら、発表までに3カ月以上を要しているのだ。また、情報を漏洩した行員については10月28日に「懲戒解雇」で処分したとしているが、香川県警の事情聴取を受けたのは9月中旬。処分まで1カ月以上が経過しており、迅速な対応からは程遠い。
そもそも小誌12月号の記事が出ていなかったら、時期も含めて、どのような形での発表になったの、大いに疑問である。そればかりではない。会見で最も問題なのは、この期に及んでも、百十四銀側が"隠蔽"ともいうべき、問題の矮小化を図ろうとしている点だ。
百十四銀の10月31日会見では、若手行員が情報を漏洩していた先は「友人で、頻繁に食事する仲だった」との発表だったというが、小誌はもちろん、その後の各種報道でも明らかな通り、友人とは同期入行の元同僚、すなわち百十四銀の元行員だったのである。百十四銀は刑事告訴を検討しているとしているものの、果たして、一不良行員の個人的な"事件"だったのか――。
そんな疑念を掻き立てる理由は、昨年11月1日に小誌18年12月号が報じた渡辺智樹会長(当時)の"セクハラ事件"に見られたような、百十四銀の度し難い隠蔽体質に他ならない。セクハラ当事者の渡辺氏は紆余曲折の末に百十四銀を追われたが、その結果、行内では「オーナー家」を僭称する似非創業家の綾田三代目の裕次郎頭取の専制支配が現出。ガバナンスは正常化するどころか、綾田家および裕次郎頭取との距離感で人事などが決まる一方、ハラスメント事案がいまなお相次いでいるという。
そんな中、百十四銀は明日11月11日月曜日に情報漏洩事件発覚後初の頭取による決算発表会見を控えている。地元記者の追及がどこまで伸びるか、予断を許さないが、その一助となることを期して、昨年12月1日発売の19年1月号に掲載した特集記事《セクハラ百十四銀行「色情と暗黒の10年」》を以下に無料公開する。
"似非創業家"三代目の頭取、綾田裕次郎
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小誌先月号(2018年12月号)の「今すぐ出処進退について重大な決断をすべきだ」との指摘通り、香川の地方銀行、百十四銀行は10月29日、会長の渡辺智樹の辞任を発表した(会長辞任は31日付)。奇しくもこの日は、渡辺が絡んだセクハラ事件を報じた12月号が刷り上がった当日だった。
それから1カ月。セクハラ会長が去った百十四は、再生を誓っているかと思いきや、高松の本店は再び弛緩した空気に覆われているという。それもそのはず。セクハラの汚辱に塗れた渡辺は相談役として残留。11月9日に開かれた綾田裕次郎による頭取記者会見も、地元記者の然したる追及を受けることなく遣り過ごせたのだから、渡辺とともに事件の隠蔽を図った百十四の現経営陣が安堵するのも無理からぬことと言える。
しかし、その一方で、小誌編集部には、そんな百十四の前途を危ぶむ関係者からの情報提供が数多く寄せられている。加えて香川の取引先や預金者からは、同行の地元での傍若無人ぶりを糾弾する声が、これまた数多く届けられた。
金融担当相を兼ねる財務相の麻生太郎にまで質問が及んだ、前代未聞の百十四銀行セクハラ事件。まずは、11月9日の会見で明らかにされた内容を基に、その概要を振り返ってみたい。
会長セクハラ事件の"真相"
問題の会合があったのは、18年2月。出席者は、百十四側は会長の渡辺と執行役員、そして女性行員。女性行員の人数は明らかにしていない。また、行為に及んだ取引先の企業名や出席者の氏名などの一切も公表していない。ただ、女性行員は最初から参加していたものの、取引先とは無関係だった。なお、場所は百十四側が用意。当初は百十四側が費用を負担するつもりだったが、取引先が先に会計を済ませていた。
5月の法令順守の行内アンケートで問題が発覚。6月の処分は、頭取の綾田を含めて7人の取締役の合議で、内容は渡辺と執行役員に対して報酬と賞与の減額処分。しかし、その後、問題を指摘する「投書等」があり、百十四側が社外取締役に連絡したのが10月19日。そこから1週間余りで会長辞任という結論が出たことになる。綾田を含む取締役7人は10月28日付で報酬を減額処分とした――以上が百十四側の公式発表だ。
ちなみに、小誌が百十四に質問状を送ったのは10月4日。いずれにせよ、2月の会合から8カ月、6月の行内処分から4カ月の間、女性行員の人権に関わる重大な事案は放置されたままだった。
一方、会見で百十四は「取引に関わる」「個人の特定に繋がる」などとして、最後まで情報開示を拒み続けた。弁護士が再調査するまでの経緯、そもそも女性行員を会合に呼んだのは取引先の要望なのか、渡辺の意向なのか。事件の核心は何も説明されていない。
また、驚くべきことに、百十四はこの期に及んでも、セクハラ行為があったこと自体を認めず、あくまでも「不適切行為」で、渡辺は口頭で取引先を制止したと言い張っている。さらに、担当者でもない女性行員を会合に出席させた理由について、「場を和ませるため」と説明。女性行員をコンパニオンのようにしか見ていない極めて異常な行内風土が明らかになった。調査に当たった弁護士からも「現代社会で許されない行為」との厳しい批判が出たという。
しかし、渡辺辞任後も取材を続けた小誌は新事実を含め、セクハラ事件の詳細を改めて把握した。今度は小誌取材で得られた事実を基に事件を見てみることにする。
件の会合があったのは18年2月15日。場所は高松市内でも有名な高級日本料理店。出席者は、百十四側が渡辺と執行役員で本店営業部長の石川徳尚、20代の女子行員2人。取引先は合田工務店社長の森田紘一と、その甥っ子で同社課長の合計6人。
百十四をメインバンクにする合田工務店は、高松に本社を置く未上場の地場ゼネコンで、売上規模は同業で四国最大手。東京周辺でもマンションの施工を手掛け、近年は好決算が続く。そして、セクハラ当事者の森田は1944年生まれ。慶応大商学部卒業後、岩谷産業を経て72年入社。86年、社長に就任。高松商工会議所副会頭や香川県建設業協会会長なども務め、14年には旭日中綬章を受章している地元の名士である。
会食は百十四側が主催。会合の直接的な性格は、森田が同行の金融商品を購入したことに対する謝意の場だった。ただ、森田とともに課長が出席した理由は、独身である甥っ子の「婚活」の意味合いもあったという。つまり、複数の女性行員を呼ぶことは、初めから既定路線だったのだ。
会食があった当日に「セクハラの範疇を超えた行為」があったのは、小誌前号で報じた通り。ここでも詳細は伏せるが、渡辺らもセクハラ行為に及んでいたのかという事実確認に対し、百十四は「回答を差し控える」として否定しなかったことだけは明記しておく。
その後、5月に行内でセクハラ事件が判明、株主総会を控えた6月に事態は一気に動き出す。
6月中旬、渡辺と石川が女子行員2人に対し直接謝罪するとともに、頭取の綾田に始末書を提出。そして、夏季賞与の減額処分で幕引きが図られた。ただ、この時点で執行役員の石川には賞与が支払われていたため、冬季賞与で減額が実施されることになった。
これらの処分は頭取の綾田に一任されたが、その時、捻り出されたのが、「取引先による不適切行為を止められなかった」という屁理屈に他ならない。というのも、セクハラ行為自体の懲戒は内規にあるものの、第三者の行為を止めなかったことについては「記載がない」からだ。結果、綾田が決裁することになったという。
詭弁以外の何物でもないが、百十四側の釈明はこのシナリオに依拠しているというわけだ。敢えて下品な表現をすれば、「一線は越えていない」――。事ここに及んでも、渡辺の抵抗はかくも凄まじいものだったと言える。