あらためて安倍治世の「大罪」を振り返るべく、本誌「ZAITEN」2020年8月号で展開した特集《さらば!安倍晋三――アッキーともども早く消えてくれ》の巻頭レポート〈安倍「最悪」政権7年半の大罪〉(ルポライター・古川琢也氏寄稿)の〈後編〉を〈前編〉〈中編〉に引き続き無料公開します。
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税金私物化が当たり前―
学校法人森友学園に対し、財務省近畿財務局が2016年6月、大阪・豊中市の鑑定価格9億円あまりの国有地を8億円も値引きして売却したことに始まる「森友学園問題」。この問題が国会で追及される過程では、財務省が売却の経緯を記した決裁文書を改竄していたことが、18年3月2日に発覚した。
同7日には、近畿財務局の職員・赤木俊夫氏(当時54歳)が改竄を命じられたことを苦にし自ら命を絶っている。赤木氏が死ぬ間際に遺した手記の全文は、今年になり元NHK記者の相澤冬樹氏(現大阪日日新聞論説委員・記者)が遺族から入手し『週刊文春』(3月18日発売号)で公表。改竄を指示したのが佐川宣寿理財局長(当時)であることなどが、この手記の内容から明確になった。
だが安倍は、文春発売翌日の国会で「検察ですでに捜査を行い、結果が出ていると考えている。麻生太郎副総理兼財務相のもと、事実関係を徹底的に調査し明らかにした」と一蹴。財務大臣である麻生太郎も、記者会見で「新たな事実が判明したことはない。(改竄問題の)再調査を行うという考えはない」と突き放した。遺族はさる6月15日に再調査を求める35万筆あまりの署名を安倍宛に届けたが、安倍はそれにも同様の態度を決め込んでいる。手記をスクープした当人・相澤冬樹氏が言う。
「手記が出た後の政権側の反応で僕が最も興味を引かれたのは、『新事実はない』という麻生氏の発言。安倍さんの発言も意味としては同じでしょう。あの手記は佐川さんに限らず多くの固有名詞を挙げながら改竄の経緯を説明しており、国民やメディアからすれば、新事実だらけと言ってもいいくらいのものです。
にもかかわらず『新事実はない』というのは、要するに手記に書いてあるような事実を、彼らは財務省から報告を受けてとっくに知っていた、ということだと僕は受け止めています。だったら、財務省が18年6月に公表した固有名詞がほとんど書かれていない報告書とは別に、首相や財務大臣に報告するためのもうひとつの報告書があるはず。それは赤木さんの手記以上に詳細なはずですから、ぜひ公開して欲しいですね」
安倍政権の無情な切り捨て
亡くなった赤木氏はもともと旧国鉄の職員であり、1987年の国鉄分割民営化の際に中国財務局に採用され財務省職員となった。そのため、財務省には恩義を感じていたと同時に、通常の職員以上に上からの命令を拒みにくい立場であったとも言われる。赤木氏と同じノンキャリア組であった、元経産省職員の飯塚盛康氏が言う。
「赤木さんを自殺に追い込んだ決裁文書改竄のきっかけが、安倍首相による、『私や妻が関係しているということになれば、総理大臣も国会議員も辞める』という17年2月17日の国会答弁にあることは間違いなく、赤木さんの死に関する責任が安倍夫妻にはあります。それにもかかわらず、安倍さんは他人事のような態度に終始し、昭恵夫人に至っては赤木さんの自殺が報じられた18年3月9日当日の夜に、芸能人らと一緒にパーティに参加している。亡くなった赤木さんの無念を思うと、怒り以上のものを感じます」
森友学園問題で明らかになった安倍の税金私物化は、安倍が「腹心の友」である加計孝太郎が理事長を務める学校法人に獣医学部を開設させるために国家戦略特区制度を悪用した疑いが持たれている「加計学園問題」、そして地元選挙区の支援者を税金を使って接待した「桜を見る会」へも続いている。このうち安倍の後援会が18年4月の「桜を見る会」前夜にホテルニューオータニで開催した夕食会については、総勢662人の法律家が今年5月21日、公職選挙法と政治資金規正法に違反した疑いで、安倍とその後援会幹部2人の計3人を東京地検に告発した。
夕食会に参加した約800人分の参加費計約400万円の収支を政治資金収支報告書に記載しなかったことが政治資金規正法に違反しているほか、最低でも1人1万1000円以上かかる飲食費に対して安倍事務所が参加費を5000円ずつしか取っておらず、差額分を負担したのは公職選挙法が禁じる選挙区内での寄付行為にあたるというものだ。
5000円では絶対無理
このうち政治資金規正法違反について安倍側が主張しているのは、「ホテルとの契約主体は個々の参加者であって『後援会としての収支」は一切ない』というもの。だが、告発の呼びかけ人の一人である泉澤章弁護士はこの言い分を一笑に付す。
「常識的にも法律的にもありえません。そもそもこの夕食会の案内状は安倍事務所から出されていますし、ホテル側から見ても安倍事務所が契約相手でなければ、仮に予定人数通り集まらなかった場合のリスクは誰が負ってくれるのか、という問題が発生する。こういう、たとえば会社の忘年会などを申し込んだ場合に人数が揃わなかったり、キャンセルになった場合に店に補償する責任は申込者、つまり幹事なり会社が負わなければいけないということは、過去の判例でもはっきりしています」
一方の寄付行為に関しては、ニューオータニが「1人1万1000円以下では受けていない」と早くからメディアに答えているにもかかわらず、安倍は5000円という値段は「ホテル側が設定した」と主張。「唐揚げを増やすなど(安くする)やり方はある」という官邸幹部の言い訳もあった。
「私たちは告発にあたり、安倍後援会主催の夕食会と同じくニューオータニで開かれ、参加人数もほぼ同じの800人だった集会の明細書を証拠提出しています。そちらの費用は1人あたり大体1万5000~1万6000円で、飲み物だけで1人4000円かかる計算。ビュッフェ形式にして料理の提供量を抑えたとしても飲み物代だけはやはり人数分かかるのです。ニューオータニが言うとおり、どう安く見積もっても1人1万円以下で開けるようなものではありませんし、5000円では会場費さえ賄えないでしょう。
これだけかかるサービスの代金を、仮に安倍首相が言うようにホテル側に安く提供させたのであれば、安倍事務所はホテルに負けさせた分を参加者に還元したという意味で、やはり寄付に当たると考えられます」(同)
告発が受理され、安倍が法の裁きを受けるかどうかは、まずは東京地検の見識に委ねられている。検察が政権の番犬ではないことを、今度こそ示してくれるのだろうか。
安倍政権の「メディアコントロール」
かくも重大な失政を重ねた安倍が7年も総理を続けてしまったのは、端的には支持率が落ちなかったからだ。森友・加計学園問題が取り沙汰された2018年春にはさすがにメディア各社の世論調査の数字も30%台まで下がったが、それさえもすぐに忘れられ5割近くまで盛り返した。ひと昔前の首相であれば命取りになるようなスキャンダルがいくつもありながら、世論はなぜ安倍だけは許してしまうのだろうか。
その理由を考える上でマスメディアの責任が大きいと語るのは、前出の古賀茂明氏だ。
「『森友・加計学園問題』にしても『桜を見る会』にしても、これらが他の政権で起きていたらマスコミはもっと大騒ぎし、世論が見放して自民党の内部からも首相を降ろす動きが起きたはずです。起きないのは政権側がメディア各社のトップを押さえているから。特にテレビ局の幹部クラスには、総理とお友達になれることに虚栄心をくすぐられるタイプの人が多く、首相から携帯に着信があると、わざわざ部下に聞こえるような声で『安倍さんから電話だ』と言いながら席を外すような人も実際にいるのです。政権に睨まれても権力監視の役割に徹しようと考える記者はどこの社にもいますが、彼らだって所詮サラリーマンですから、上が政権に手懐けられた状況で抵抗し続けることはできません。さらに、メディアの半分が政権擁護の立場を取っている影響も大きい。どんなスキャンダルが出ても、半数のメディアは批判を抑えるので世論が割れてしまい、政権支持率が急落することにはなりにくいからです」
無恥に無恥が群がる
一方で、現在のメディア業界は、「社内ヒエラルキーへの遠慮」という消極的理由から安倍批判を避けているどころか、むしろ嬉々として安倍の幇間を務める、田崎史郎(時事通信特別解説委員)や阿比留瑠比(産経新聞社政治部編集委員)、山口敬之(元TBS記者)のような人物で溢れてもいる。
そうした、安倍との距離の近さを誇示し合う記者の代表格に、NHK政治部記者の岩田明子がいる。安倍が五輪開催1年延期を決定した翌日の3月25日のNHKニュースでも岩田が出演し、「安倍首相はトランプ大統領から1000%の支持を得た」という公共放送とは思えない解説まで行った。
17年のノンフィクション『安倍三代』で、安倍の成蹊大学時代の恩師である加藤節氏(政治学者・成蹊大名誉教授)に取材し、「安倍首相には、ignorant(無知)とshameless(無恥)という『2つのムチ』がある」との言葉を引き出したジャーナリストの青木理氏は、安倍政権下のメディア状況をこう分析する。
「加藤節さんが言うように、安倍政権は本質的に恥というものを知らない政権。しかしそれゆえに同じように恥を知らないメディア人を吸い寄せる力があります。
昔も政権との関係の中で『御用』的に振る舞うメディア人がいなかったわけではありませんが、そうはいっても彼らは、政権のタガが外れそうになったら一石を投じるくらいの矜持は持っていた。自分が書いたものや喋ったことについて、後の世でどう思われるか、歴史の中でどう位置づけられるかなどを判断し、一線を越えた言動は恥ずかしいと思う気持ちが彼らにあったのではないでしょうか。しかし、いま安倍政権の応援団同様に振る舞っているメディア人たちには、そうした恥の意識や自分を客観視する能力があるようには感じられません。
皮肉を込めて言うのですが、私は安倍政権の唯一の、しかも過去のどの政権もなしえなかった凄みは、『政権が何をしようと関係なく、妄信的についていく』支持層が一定数いることだと思っています。そういう、もはや『信者』と呼ぶしかない人たちがメディアの中にもいて、どこまで意識的なのかはともかく、恥知らず同士で結びついている。それがこの政権の独特の〝強み〟です」
繰り返された「刷り込み」
対メディアとの関係という点では、安倍ほどテレビ、そして芸能人を利用してきた首相はいない。
就任1年目の13年5月には、元プロ野球選手の長嶋茂雄と松井秀喜への国民栄誉賞授賞式を東京ドームで行い、安倍本人はそこに背番号「96」のユニフォームを着て登場した。理由を聞かれ安倍は「96代目の首相だから」と答えたたが、安倍はこの頃、持論である憲法9条の改訂を目指し、まず憲法の改正手続きについて定めた96条を改訂する案を盛んに唱えてもいた。
その後、14年3月には現役の総理として初めて『笑っていいとも』(フジ)に出演したのを手始めにバラエティ番組への接触を重ねていく。17年12月には、お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志以下、フジの情報番組『ワイドナショー』の出演者たちと東京・四谷の焼肉店で会食。それが功を奏したのか、同番組では政権が森友学園問題に揺れていた18年3月の放送でタレントたちが露骨な安倍擁護を展開した。
19年5月10日には、アイドルグループ「TOKIO」のメンバー4人をピザ店に招待し、その模様を首相官邸や安倍個人のSNSに投稿。同22日には俳優の大泉洋と高畑充希を首相公邸に招いて会食し、やはりSNSに投稿したほか、統一地方選挙前の19年4月20日には吉本新喜劇への飛び入り出演まで行っている。「桜を見る会」に毎年大量の芸能人を招待してきたのも、支持者を人気者に会わせ饗応するだけの目的でやったことではないだろう。
こうした安倍特有のイメージ戦略について、フリーライターの武田砂鉄氏は次のように言う。
「政治的な失敗をパフォーマンスで取り戻そうとする安倍政権の常套手段は、今回のコロナ対策でも、航空自衛隊のブルーインパルスを『医療従事者への感謝』という名目で飛行させたことをはじめ何度か見られました。
歌手の星野源とのコラボ動画は結果を見れば大失敗でしたが、あれを首相の取り巻きが見て『使える』と思ったこと自体が非常に安倍政権的です。とにかく目立つことによって、『この国を動かしてくれているのは安倍さんだ』『安倍さんはいい人だ』というイメージの刷り込みさえできればいいと思っている。その刷り込みが続いた結果、国民は野党が安倍政権に対して行うまっとうな追及さえ、『野党は文句ばかり言っている』『安倍さんの足を引っ張っている』という図式で見るようになってしまった」
ある意味で安倍は、平成末期という軽薄な時代になるべくしてなった首相だった。だがそんな時代こそを、もう終わりにしなければいけないのだ。
(敬称略、肩書等は掲載当時のまま)
【さらば!安倍晋三&アッキー「最悪政権の大罪」(前編)】はこちら↓↓↓
http://www.zaiten.co.jp/blog/2020/09/post-21.html
【さらば!安倍晋三&アッキー「最悪政権の大罪」(中編)】はこちら↓↓↓